間話「とある男の心情です」
心から君を愛していた。
愛国心もなく、むしろ不快に思っていた国を愛せるようになったのは君のおかげだった。
振り向いてほしくて、いろいろなことをした。
馬鹿なこともしたし、怪我もした。君に呆れられて大きなため息をつかれたこともあったね。
立場があるので想いを受け取れないと悲しそうに言った君の顔を見て、脈ありだ、と内心ガッツポーズしたのは実は内緒さ。
君と相思相愛になれたから、君との未来を願ったから、私は信じてもいない神に傅いたふりをして、上まで上り詰めた。
「――あなたって、真面目そうなのに馬鹿なのね」
巫女の婚姻を認めさせた私に、君は笑ってくれた。
あの時の君の笑顔と、嬉しそうな笑い声はきっと死んでも覚えているだろう。
君と結ばれ、可愛い娘もふたり生まれた。
いつまでもこんな幸せが続くと思っていたよ。
だが、世界は残酷だ。
世界は、国は、信じてもいない女神が私から君を奪った。
娘たちから母を奪ってしまった。
悲しかった。
だけど、私は父親だから、耐えたよ。
娘たちのために、心の中で泣き叫ぼうと、何度も呪詛を吐き出したとしても、笑顔を絶やさなかったよ。
それが、君の最期の願いだったから。
娘たちは幸せそうだ。
驚くことに、可愛い孫が二人もいるんだよ。
君に見せたかった。
抱っこしてほしっかった。
ふたりとも君によく似ているんだ。
でもね、私はまだ立ち直れていない。
孫と酒を飲み交わしても、可愛い孫と食事を一緒にしても、君を失った悲しみを乗り越えられていないんだ。
私は、君がいないと駄目だ。
できることなら、命を絶って君のもとに行きたい。
しかし、無理だろう。
仮に行けたとしても、君は喜ばない。
だからね、まだ我慢するよ。
君は女神の復活を願っていたね。
狂信者ではなく、選ばれた巫女として、女神がいて世界を良いものにしてくれるなら命を捧げても構わないと言ったね。
私は知ってしまったんだ。
女神に、君が命を捧げた価値などないと。
女神が復活しても、君が望んだ世界にはならないと。
いっそ、君の手を取り国を飛び出すべきだった。
あの日、君のために、いいや、自分のために上を目指した私の選択は間違っていた。
私はいずれ君のところへ行くだろう。いや、ひどいことをたくさんしたら、いけないかもしれない。
でもね、けじめだけはつけるつもりだ。
君の命を捧げておきながら、復活しなかった女神も、君を犠牲にしても失敗した男を、私がすべて殺すから。
笑顔という仮面を貼り付けて、外し方は忘れてしまったけど、おかげで信頼されている。
懐に入ることができた。
――復讐の時間までもう少しだよ。
〜〜あとがき〜〜
次回から、女神の正体とか、いろいろです。
その前に、とある方の心情を。
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