69「敗北しました」②
サムとギュンターたちが、ウォーカー伯爵家に着いた時には全てが終わっていた。
「……すいやせん、兄貴」
「ボーウッド、ありがとう。無理して喋らなくていい。本当に感謝しているよ」
血まみれのボーウッドに回復魔法をかけながら、サムは涙を流して謝罪する彼に感謝の言葉をかける。
嘘偽りなく、リーゼやクリーのために身体を張ってくれたボーウッドに心から感謝していた。
「……すみません。対策を取られすぎていました」
「友也もありがとう。みんなを守ってくれて」
「肝心なリーゼ殿、クリー殿を攫われてしまいました。ボーウッドくんと違い、僕は最低限しか抵抗できませんでした」
ボーウッドも重症だが、友也もかなり痛めつけられたのか怪我をしている。
聖術のせいだろう、超速再生もできずにいる。
一番酷いのは、ロボだった。薫子が全力で治療に当たっているため、なんとか持ち直したが、一時は呼吸が完全に止まっていたのだ。
「もう過ぎたことはしょうがないさ。それよりも、まさか元ラインバッハ男爵領に来いなんて……女神はそこにいたのか」
「サムにとっては灯台下暗しでしょうね」
無事だったアリシアやステラたちは食堂に集まっている。
ヴァルザードは戦えなかったことを謝罪していたので、後でちゃんと声をかけなければならない。
ギュンターとジョナサンは、カルの転移で王宮に今回の一件を知らせに向かった。
サムたちが勝手に動くこともそうだが、神聖ディザイア国が完全に敵対した以上、クライド陛下の意見も聞かなければならない。
また、元神聖ディザイア国の聖騎士マクナマラ・ショーンは、母国の教皇が甥の妻とお腹にいる娘を攫ったことに大きな憤りを感じていた。同時に、自分の身が潔白であることを証明するために、宮廷に出頭し、現在は軟禁状態にある。
「――問題は山積みだ。リーゼとクリーを取り戻すことはもちろんだけど、向こうは人質を手に入れたからと薫子とゾーイの身柄まで求めてきやがった」
「聖女を利用して女神を復活させるのはわかりましたが、利用された聖女がどうなるのかわからない以上……渡すのは良しとできません。しかし、リーゼ殿とクリー殿の身を考えると……人質は、ふたりだけではありません。サムとリーゼ殿の子と、クリー殿とギュンターの子、四人が人質です。正直なことを言うと、業腹ですが僕たちに選択肢は少ない」
友也が拳を握りしめた時、部屋の中に転移魔法が現れた。
淡い光の中から現れたのは、転移の使い手カル・イーラ、王宮に説明に行っていたギュンター・イグナーツ、そして最古の魔王ヴィヴィアン・クラクストンズだった。
「ヴィヴィアン様?」
「ヴィヴィアン、なぜ、あなたが?」
夜の国から動くことをしない魔王ヴィヴィアンが、突然現れたことにサムはもちろん、友也も驚きを禁じ得ない。
すると、ヴィヴィアンは、悲しげに顔を歪ませると、サムたちに頭を下げた。
「こんなことになってごめんなさい。まさか、アルフレッド・ポーンが生きていたなんて」
「……知っているんですか?」
「ええ、彼は――姉の信奉者なの」
サムだけではなく、話を聞いていた誰もが「姉?」と首を傾げる。
次の瞬間、ヴィヴィアンは衝撃的はことを告げた。
「アルフレッド・ポーンが復活させようとしている女神は、私の姉なの」
〜〜あとがき〜〜
次回は、教皇サイドです。
その後、間話を挟んで新章突入です!
コミック1巻、書籍1巻、2巻が好評発売中です!
よろしくお願い致します!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます