56「危機です!」①
「うん。相変わらずです反吐が出るほど平和ボケした変態国家だ。こんな汚物のような国に聖女が集まっているのも、我が愛しの女神が封じられていることも腹立たしい」
神聖ディザイア国教皇アルフレッド・ポーンが、スカイ王国のウォーカー伯爵家の前にいた。
まだ知られていないが、この屋敷には聖女がいる。
サミュエル・シャイトという警戒すべき人間が竜の里にいることを確認できたので、アルフレッドは、聖女を迎えにきていた。
「――さあ聖女をこの手に」
「できると思いますか?」
しかし、サムがいなくとも、ウォーカー伯爵家には遠藤友也がいる。魔王ロボ・ノースランドも、戦力になるのか不確かであるが魔王フランベルジュもいる。
爵位を持つ強さがある獅子族の獣人ボーウッドも、屋敷こそ離れているが準魔王のダフネ・ロマック、ダニエルズ兄妹もいる。
だが、アルフレッドにとって、脅威となるのは遠藤友也くらいだった。
「まさか、この屋敷に聖女がいるとは思いませんでした」
「いやらしいことしかできない変態に女神の使いである聖女がわかるはずがないだろう。生まれ変わってから出直してくるといい」
「……ま、まあいいでしょう。しかし、ようやく会えましたね」
「僕は君のような穢れた存在には会いたくなかったけどね」
「僕が魔王になって一千年以上……よくもまあこそこそと隠れていましたね。その間に、オクタビア・サリナスを誑かし、人造魔王ですか……僕が穢れているのなら、お前は狂っているよ」
遠藤友也にとって、女神は滅ぼす存在だ。
だが、復活しないならそれでよかった。わざわざ眠っている存在を起こして面倒ごとに関わるつもりはなかったからだ。
女神以上に、消したい存在がいた。それが、目の前の青年だ。
神聖ディザイア国の教皇であること以外、名前も、容姿も、不明だった男がようやく目の前に現れてくれた。
教皇さえ殺してしまえば、女神を復活させようとする一番の障害は取り除かれることとなる。
「面白いことを言うね。僕は人間になにかをしたわけではない。女神が存在を認めなかった魔族で少し実験をしただけさ。女神のために貢献できただけでも感謝してほしいよ」
「……狂人と出会うのは初めてではありませんが、お前ほど話ができない人間は初めてです」
「魔王風情が、僕と対等に口を聞けると思っているのかい?」
「女神に狂った人間が、舐めたことを」
友也は教皇から情報を引き出そうとしたが、やめた。
狂人と会話をすることを時間の無駄と考えたのだ。それよりも、殺すことを優先する。
ウォーカー伯爵家の人間の中に、聖女がいるのは驚きではあるが、それぞれを守っているので心配はしていない。
友也は同僚たちを信じて、自分のすべきことをする。
「場所を変えましょうか。僕とお前が戦うには、ここでは狭すぎる」
「いや、構わないよ。僕は、この国の人間がどうなろうと知ったことではないからね」
「……この国はお前の女神の大好きな人間の国だぞ」
「エヴァンジェリン・アラヒーなどという呪われた竜を女神と崇めているような人間など、我が女神の愛する人間ではない」
「……それを言われるとなにも言えなくなりますね。だが、お前に拒否権はない」
友也が指を鳴らす。
教皇アルフレッドを中心に魔法陣が展開し、強制的に転移をする――はずだった。
「僕がなにも対策していないとでも思っているのかな?」
アルフレッドが、魔法陣を踏みつけると、砕けた硝子のような音を立てて魔法陣が破壊されてしまう。
「…………なるほど」
「君が僕を探していたように、僕も君を探っていたよ。君が恐ろしいのは、魔王としての力ではない。その転移魔法だ。そして、親しい者を作らないので人質が通用しないこと」
アルフレッドは、醜悪な笑みを浮かべた。
「転移魔法は阻むことができるようになった。だが、それででは倒せない。しかし、君はこの国に馴染みすぎた! わかるかい? 今の君にはかつての君にはない弱点ばかりだ!」
「……忌々しい。女神を崇める国のトップとは思えませんね」
「人間は人間らしく戦うのさ! では、交渉しよう。スカイ王国の民を殺されたくなければ、どきたまえ。なに気にすることはない。僕が用があるのはふたりだけだ」
「……僕にそんな脅しが通用するとでも?」
「強がらなくていい。声が震えているよ。ああ、そういえば、君はマクナマラと親しくしているようだね。かつての神聖ディザイア国に仕えていた彼女を利用するのは忍びないが、大事の前の小事だ。なんなら彼女を君の前で八つ裂きにしてあげてもいいんだよ?」
「――貴様」
睨みつけてくる友也の眼光に怯えるどころか、楽しそうに、嬉しそうに、腹を抱えてアルフレッドが高笑いする。
「あははははははは! すました顔をしていた魔王が、レプシーよりも恐ろしいと謳われた魔王遠藤友也が! なんて顔だい! 傑作だよ! 嗚呼、誰か絵師を呼んでくれたまえ! ぜひこの光景を後世に残したいね!」
〜〜あとがき〜〜
シリアス復活ですが、お話を進めるためのシリアスであるので読んでいただけますと幸いです。
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