54「青年の正体です」②
「あまり驚かないでほしいな。そうだ。友人のように気軽にアルと呼んでくれて構わないよ」
「ふざけんな! ヴァルザードから話は聞いている。オクタビア・サリナスを操り、兄弟を人質に取った最悪野郎だろう! 誰が友達だ!」
まさか正体不明の神聖ディザイア国教皇が、目の前にいるとは思わなかったが、ヴァルザードにした仕打ちを思い出し、怒りが湧く。
(……状況的にはまずい。まさかエヴァンジェリンをかつて誑かした男が、教皇でヴァルザードの父親だと? なんだ、これ。なにが起きているんだ?)
「……私はお前の顔を見たことがある」
「おや? ゾーイ・ストックウェルじゃないか。君も久しぶりだね」
「やはりそうか」
「ゾーイ?」
唸るエヴァンジェリンに続き、ゾーイまでも教皇アルフレッド・ポーンを知っていると言い、サムの混乱は増す。
こいつは、どれだけ多くの人間の人生に関わっているのだ、と。
「すでに滅んだ生まれ故郷で、私を聖女として祀り上げた司祭だった男だ。死んだと思っていたが、生きていたとは。いや、まさかエヴァンジェリンをたぶらかした男と同一人物だったとは……貴様はずいぶん殺される理由を抱えているようだな」
ゾーイが抜刀し、自慢の速さを持ってして斬りかかった。
刹那、剣がアルフレッドの首を刎ねたが、一瞬にして再生してしまう。
「酷いことをするね、ゾーイ。言っておくが、今の僕を竜のブレスでは殺せない。君の剣でも殺せない。ほら、サミュエル。ヴァルザードも首を刎ねたれて生きていただろう? 僕はね、彼ら実験体に試して安全性を確認した技術はすぐに取り込むようにしているのさ。おかげでこんなに強くなった」
「……仮にも父親が子供を実験体なんて言うな。不快だ」
「おっと申し訳ない。僕はどうやら不用意に人を怒らせてしまう悪癖があるようなんだ。だけどね、実験体に実験体と言って何が悪い?」
「てめぇ」
「オクタビア・サリナスを唆し、魔王を名乗らせ、数多の研究の資金と実験材料を提供し続けたのは僕だ。彼女のような汚らわしい汚物のような女に、偽りとはいえ愛を囁き支えてあげたのも僕だ。玩具に等しい実験体の世話をし、父となのり可愛がってあげたのも僕だ。わかるかい? オクタビアの生み出したものは、すべて僕のものなんだよ」
「――死ね」
サムは手刀で、アルフレッドを唐竹割りに斬り裂いた。それだけではサムの感情は治らず、斜めに、真横に、何度も繰り返し斬り裂き続けた。
「これは酷い。再生に時間がかかってしまうじゃないか」
地面に倒れ、血溜まりの中でバラバラの肉片になってもアルフレッドの軽口は終わらない。
「ならば私が引導を渡してやろう。大切な娘を拐かしたことを後悔するといい」
「おっと、竜王殿を相手にするのはまず――」
竜王炎樹はアルフレッドの言葉を最後まで聞かず、いや、最初から聞いておらず、指先から真紅の閃光を放った。
その一撃は、怒り任せのエヴァンジェリンのブレスよりも強力で、大地を捲り、里を貫き、はるか後方にある山を抉った。
轟音と衝撃がサムたちを襲い、たまらず防御を取らされてしまう。
さすが竜王だけあり、魔王と同等かそれ以上の力だ。
閃光が収まると、アフルレットの姿はなかった。
「……死んだ、のか?」
ゾーイが恐る恐る呟くと、
「そんな、まさか。私はこの程度で死んだりはしないよ」
アルフレッドの声が響き、まるで逆再生したように肉片が集まり人の姿になっていく。
「……吐き気がする。なにが人間だ」
悪態をつくエヴァンジェリンに、衣服までは再生できなかったアフルレッドが全裸で笑った。
〜〜あとがき〜〜
全裸だけどシリアスが続きますよ! 全裸だけど!
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