45「魔族への悪感情があるそうです」①





「魔族の排除って、なんでいきなり?」


 サムの疑問はもっともだ。

 そもそも、大陸西側に魔族は少なく、いても隠れているが、人に紛れて生活しているので、気づかれていないのが一般的だった。

 最近になって、スカイ王国に魔族が現れ出し、意外と西側にも魔族がいることがわかったが、それはスカイ王国限定の話だ。

 それともサムが知らないだけで周辺諸国にも魔族がいるのだろうか。


「以前から、と言っても数ヶ月ほど前くらいではあるが、周辺諸国に魔族がはっきり脅威だと認知されたのである。それはレプシーの復活であり、サムの魔王化だ」

「まさか俺のせいで?」

「いや、そうではない。すまない。私の説明する前に、妖精たちの情報を精査できていないのだよ。だが、サムが魔王と至り、準魔王、魔王、魔族とスカイ王国は良好な関係を築いてきた。それをよしとしない国も多い」

「危険だと判断されたってことですか?」

「……そうではないのだ。スカイ王国ばかり魔族と交流してずるいというものが大半だ」

「――しょーもな」


 サムはガックリ肩の力が抜けてしまった。

 以前にも似たような話を聞いた気がするが、まさか本当に国が「お前ばかりずるい」などと言い出すとは思わないのだ。


「周辺諸国は、魔族との交友の鍵をサムだと思っている。実際そうであろうと私も思う。それゆえに、サムを国に招きたい、サムに娘を嫁がせたい、ひどいものだとサムを寄越せと乱暴な言葉で言うものもいる始末だ」

「ふん。人間はいつだって力と権力を欲するだけのくだらん生き物だ。じゃまなら滅ぼしてしまえばいい。どうせ百年くらい経てばまた勝手に増えているのだからな」

「元人間で聖女のゾーイさんが言うとじわじわくるっすねぇ」

「黙れ」

「はーい」


 元聖女であり、人間でもあった準魔王のゾーイには、周辺諸国の態度に思うことがあるようだ。

 険しい顔をしているゾーイをカルが茶化すことで、少しだけ張り詰めた雰囲気が和らいだ気がする。それでもゾーイは変わらず険しい顔を続けていた。


「もっとも、サムを他国の派遣するのは……多忙であるそなたには酷であろう。嫁を増やすのも考えたが、思惑を持ってくる女性をそなたに近づけるのは良しと思えない。なによりも、順番待ちしている女性たちに怒られる未来しか見えないのでありえぬだよ」

「順番待ちて……いや、まあ、はい、いろいろその、ちゃんとしなければならいことはあると思いますが、もうしばしお時間をいただければ、はい」


 クライドの言う「順番待ちしている女性」という言葉に、ゾーイとカルの視線がサムに向いたので、冷や汗を流しながら必死に言い訳をする。

 サムとしては、彼女たちの気持ちはわかっているが、ちゃんと順序を踏んでから関係を進めていきたいと思っている。

 ゾーイとは交換日記を続けているし、カルとはときどき食べ歩きをしている。オフェーリアとも領地運営の話でふたりで話すことは多く、シャイト伯爵領の屋敷で食事をしたり、談笑したりとしてもいる。

 エヴァンジェリンや炎樹とはあまり時間が取れていない自覚はある。ダフネとはデリックを含めて定期的に食事をしているし、ウォーカー伯爵家にリーゼたちのお世話のために手伝いに来てくれることもある。


(複数の女性と仲良くできることは嬉しいんだけど、でも、なんていうか悪いことしているみたいでちょっと困惑もしているんだよねぇ)


 日本ならば、妻がいるのに他の女性と楽しく食事など論外だ。

 異世界の結婚事情にまだ慣れていないサムだが、女性たちに誠意を持って行動していきたいと思っていた。





 〜〜あとがき〜〜

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