41「教皇が戻ってきたそうです」②





「やあ、予定よりも長く開けてしまってすまないね。元気だったかい?」

「これはこれは、教皇様。お元気なお姿を見ることができて嬉しく思います。その様子ですと、お力のほうは?」

「うん。肉体面では全力を出せるようになったよ」


 カリアンの書斎には、彼の記憶と変わらない青年――教皇が笑顔を浮かべてそこにいる。

 しかし、カリアンに教皇の強さがわからなかった。以前は、まだカリアンでも強硬の強さを理解していたのだが、それができなくなったということは、数段階上の次元に立っているということだろう。


「すっかり寒くなってしまったね。できることなら、今年中にケリをつけてしまいたかったのだけど、ちょっと難しいかな」

「なにか問題が?」

「実を言うと、肉体的な力を問題ない。だけどね、中身がまだ力が足りないんだよ」

「中身、ですか? 私にはわかりかねます。現在でも十分にお強いと思われますが」


 煽てるためではなく、純粋にカリアンは教皇の強さが十分だと思っていた。


「今のサミュエル・シャイトなら倒せるね。だけど、不安要素が大きい」

「不安要素ですか?」

「サミュエル・シャイト以外にも、ヴィヴィアン・クラクストンズと遠藤友也がいる。ロボ・ノースランドもいる。準魔王どもはいいとして、僕が怖いのは奴だ」

「奴、ですか?」

「……忌々しい変態だよ」

「どちらの変態でしょうか? 残念ながら、私の知る変態は多く……」

「名前は、ギュンター・イグナーツだ。以前、戦ったと言ったことがあっただろう?」

「ああ……あの青年ですか」


 カリアンは確かに変態だ、と納得した。


「いえ、お待ちください。彼が変態なのはわかりますが、警戒するほどの変態なのでしょうか?」

「……別に変態だから警戒しているわけではないからね」

「そうなのですか?」

「彼は僕と戦って生きている。かつての僕でもただの人間を殺すことなど造作もないはずだった。だが、彼は戦えた。味方ならば素晴らしいと、変態性に目を瞑っても受け入れただろう。しかし、考えればおかしい。魔族でも、魔王でもないただ変態だけの男に、僕が遅れをとった! しかも奴はまだ全力を出していない!」

「落ち着いてください。さあ、立ち話もなんですので、ソファーへ」

「……すまない。どうも奴と相対してから、調子が崩されているよ」


 ソファーに座り、カリアンが注いでくれた少しぬるいお茶を飲んで、一息つく。


「とにかく、変態をはじめ、敵はサミュエル・シャイトだけではない。ならば、僕の力もそれ相応にしておくべきだ。肉体は万全でも、今の僕に聖力が足りていない」

「……なぜですか?」

「女神が不在な今、僕の聖力が今より増えることがないのだよ」

「ならば、どうするのでしょうか?」

「代償魔法を行う」

「……代償魔法ときましたか」

「ああ。なにかの拍子で、戦いが始まるかもしれない。ならば、女神を解放する前に、邪魔な魔王たちをすりつぶしておく必要がある。とくにサミュエル・シャイトが成長し切る前に、ね」


 カリアンには教皇が焦っているように見えた。

 だが、指摘はしない。


「代償魔法を行うには、言葉通り代償が必要です。いかがするつもりですか?」


 カリアンの疑問に、教皇は笑った。


「聖騎士を貸してほしい。竜の里に向かう」






 〜〜あとがき〜〜

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