28「またまたおめでたです!」③
「……こんちくしょうって、お前な……いや、気持ちはわかるが。まあ、とりあえず、フラン。妹か弟ができたぞ。俺的には手のかかる息子はサムで十分だから、可愛い娘がいい」
「そんなこと知りません! ……私としては、可愛い男の子に私のお下がり着せたりしたいのですが」
「……なんで男にお前のお下がりを着せるんだよ? 女の子にじゃねえのか?」
「――今の私の言葉は聞かなかったことにしてください」
微笑ましい父と娘とのやりとりをしていたフランは、微笑みながら見守っていたレイチェルに向けて笑顔を浮かべた。
「レイチェル様、ご懐妊おめでとうございます」
「ありがとうございます、フラン。これで名実と共にシナトラ家の人間になれたと思いますわ」
「父をどうか、今後もよろしくお願いします」
「もちろんですわ。お食事から夜の生活までお任せください!」
力強い言葉に、フランは安心したような顔をした気がした。
思えば、フランの母はかつては良き母だったようだが、デライトが宮廷魔法使いの地位から退いた際に、早々に見限ってしまった。
フランはそんな母を今でも許せないでいるし、もし、自分が母のようになってしまったらどうしようと案じているのもサムは知っている。
面倒見が良く、リーゼたちともうまくやっており、ウォーカー伯爵家の使用人とも友人のように接しているフランにサムは心配していない。
なによりも、前妻が見捨てたデライトを何年もの間支えていたフランだからこそ、確信めいた自信があった。
フランは今までもこれからも、心優しい素晴らしい女性であり続けるだろう、と。
フランにソファーに座ってもらう。
以前は、仕事のできる女性といった凛とした雰囲気を持つ知的な女性だったフランも、今はふっくらしてきたお腹を労わり、緩やかなラインの衣服を好む柔らかな女性となっている。フランは、出産後、再び働きたいとサムに相談していて、サムも快く賛成している。
ただ、フランの体調と子供の成長を第一に考えると言う約束はしている。
「お話に割って入ってしまい申し訳ありませんが、デライト殿、レイチェル殿は、陛下たちにはすでにご懐妊のことをお伝えですか?」
友也の疑問に、返事をしたのはデライトだった。
「いや、まだなんだ。実を言うと、最初はやはり陛下とコーデリア様にお話しするのが筋だからな、王宮に向かったんだが、思いのほか雪が降ってきてな。避難を兼ねて、ウォーカー伯爵家に寄らせてもらったんだ。せっかくだから、サムたちにも伝えようと思ってな」
「そうでしたか。よろしければ、僕が王宮まで転移しましょうか?」
「それはありがたいんだが、転移は妊婦に問題はないのか?」
「僕の知る限りではありません。ですが、ご不安なら、僕がクライド殿とコーデリア殿をおよびしてきましょう」
「いやいや、待ってくれ! どこの世界に陛下を呼びつける臣下がいるんだよ!」
「一番は、レイチェル様のご体調です。まあ、任せてください」
友也はそれだけ言うと、転移して消えた。
デライトとしては、王と王妃を呼びつけるのは気がひけるのだろう。
レイチェルは父と母だが、デライトは臣下なのだから無理もない。
さらに言うと、もう夜だ。
最近は愉快な言動が目立つクライドでも王としての仕事をしている。そんな彼の休息の時間を奪ってしまっていいものかとデライトは悩んでいるようだった。
(クライド様じゃなくても孫ができたってきいたら喜んでくると思うんだけど、デライトさんは変なところで真面目なんだよなぁ)
「嗚呼、旦那様。わたくしのことをそんなに心配してくださり、父と母への気遣いも忘れない……まさに紳士! 紳士中の紳士! わたくしもう二人目が欲しくなってしまいましたわぁ!」
「そ、そりゃ、どうも」
ぐいぐい来るレイチェルに、デライトも押され気味だ。
フランはそんな父と義母に苦笑している。
そうしているうちに、再び部屋に魔法陣が現れ、友也がクライドとコーデリアを連れて戻ってきた。
「これは、陛下! コーデリア様!」
デライトが慌てて膝をつく。
だが、クライドはにこやかな笑みを浮かべ、同じく笑顔のコーデリアと頷いた。
「面を上げよ、デライト。魔王殿がいきなり現れたので夜這いかと思ったが、まさかの朗報だった。ステラに続き、レイチェルにも子ができたとは実に喜ばしい。うむ、良いビンビンである!」
「デライト……一度はビンビンであるかどうか疑った私を許して欲しい。お前は紛れもなく、ビンビンよ! レイチェル、デライト、本当におめでとう。我が事のように嬉しいわ!」
(クライド様だけじゃなくて、コーデリア様までビンビンって言ってるー)
〜〜あとがき〜〜
そもそもビンビンは、レイチェルさんとデライトさんをきっかけに始まった。
つまりふたりはビンビンの産みの親!
コミック1巻発売中です!
何卒よろしくお願い致します!
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