27「またまたおめでたです!」②
「おめでたですか! おめでとうございます! いやー、めでたいめでたい!」
レイチェルの懐妊に驚きはしたが、素晴らしいことだ。サムは拍手する。
「お前さんもなかなか動じなくなってきたな」
「いや、まあ、絞られてやつれているデライトさんを見れば、遅かれ早かれかなって」
「…………だよな」
デライトとレイチェルが結婚してから、毎晩のように励んでいることは、フランから聞いて知っていた。
戦闘面では優秀なデライトだが、夜の戦いはブランクがあるせいでレイチェルに主導権を握られ、搾り取られる日々ようだ。
城下町で食材卸のお店をしている、ヤマーダさんの奥さんも「シナトラさんちはお盛んよね。お姫様と結婚なされて大変かと思ったけど、仲良くしているようでなによりよ」と聞いている。
「おめでとうございます、デライト殿、レイチェル殿」
「ありがとうございますわ! この勢いでバンバン毎年産みますわ!」
「……は、ははは、計画的で何よりです」
「まさか魔王様にお祝いしてもらえるとは思わなかったぜ。だが、まあ、嬉しいな。フランが生まれた時のことを思い出して、ちょっとしんみりしちまうな」
「フラン様とデライト様に似て、聡明な子供が生まれると思いますわ!」
友也も純粋にお祝いを伝えた。
デライトは、数ヶ月前まで、落ち込み燻っていた過去があるが、こうも人生が大きく変わっていくとは思っていなかったようで、苦笑している。
「レイチェル、デライト殿、おめでとう! 以前からあなたには僕と同じ匂いがしていたが、本当に同志だったとは! ママに尻に敷かれる世界へようこそ!」
ベッドから飛び出したギュンターが、涙を流しながらデライトに抱擁しようとする。デライトはものすごく嫌そうな顔をして、手を伸ばして変態を制した。
「一緒にするんじゃねえ! 同じ匂いとかしねえからな!」
「もちろん。僕は加齢臭はないからねっ!」
「……え? しないよね? 加齢臭なんて、まだ、ないよな?」
中年男性ならば一度は気にする「加齢臭」という単語に、デライトが不安そうな顔をしてレイチェルに尋ねた。
「心配ございません! デライト様のお香りは、いつ、どこで、どんな時でも、わたくしの心を高揚させてくださいますわ!」
「そうじゃねえよ。加齢臭のことを聞いてるんだよ!」
「さあ? デライト様の香りは、デライト様の香りなので、気になりませんわ」
「駄目だ……よし、サム!」
「そんな変態の妄言をきにしなくても。加齢臭なんてしませんよ」
「……信じてるぜ」
「デライトさんからの『信じてる』って言葉をこんなシーンで聞きたくなかった!」
デライト以外が微笑むが、本人はそれどころではないようだ。
「デライト殿、レイチェル殿、おめでとうございやす。よろしければ、自分がフランの姉御を呼んできやしょうか?」
気を利かせたボーウッドの申し出を、シナトラ夫婦はありがたく受けた。
しばらくして、ボーウッドが連れて少しお腹が膨らんできたフランがサムの部屋に現れた。
「……遅かれ早かれとは思っていましたが、まさかこの歳でお姉ちゃんになるとは思いませんでした! 私の娘と同い年って、おめでとうございます! こんちくしょう!」
〜〜あとがき〜〜
フラン「意外に遅かったですね」
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