16「獣人たちが動き出しました」③




 獣人たちの元へ向かうのは、サム、友也、ロボ、ゾーイ、そしてボーウッドだった。

 友也的にはビーストマスターと化しているアリシアを連れて行きたいようだったが、妊婦の妻を雪の中、外へ連れ出すことをサムが猛反対したので諦めている。

 ただ、アリシアはまだ見ぬ獣人たちにワクワクしていたので、とても残念そうだった。


 獣人は強い相手に従うという特性から、ゾーイも同行することとなった。本来なら、カルやジェーンも連れて行きたかったが、カルは寒いから嫌っす、と言って動かず、ジェーンは魔王ダグラスの部下なのであまり迷惑をかけられないと考えた。

 メルシー三姉妹が同行すると意気込んでいたのだが、屋敷から一歩出た瞬間、「寒いから無理!」と部屋に走って戻ってしまった。

 灼熱竜一家は今まで暖かいところにいたそうで、子供たちは雪の降るような冬は初体験だと言う。それゆえに、戸惑いも大きく、寒さでちゃんと動けないことも嫌なようだ。

 なによりも暖かい部屋でぬくぬくしている気持ちよさを覚えてしまったので、春まで動かないと言ってもいる。


 ボーウッドを連れて行くのは、獣人同士なら話し合いや解決方法を探ることができるのではないか、と期待したのだが、


「不思議なんですが……俺って、狼系獣人からめちゃくちゃ敵視されているんですよね……かつて決起をしようとしたときも、狼系からは無視されていました」


 どういうわけか、ボーウッドは狼系獣人から一方的に嫌われているらしい。

 全員が全員そうではないようだが、とくに獣の国に暮らす狼系獣人からの敵視は凄いようだ。


「……実はですね、ロボが唯一名前をちゃんと覚えている獣人ということで嫉妬されているんですよ」

「あー」

「獣人は強い相手を尊敬し、従いますが、そこに男女の恋愛が混ざると結構面倒なことになります。強者が伴侶を多く持つべきという考えもありますから、必然と余ってしまう男性もいるんです。獣の国では、ロボを慕う獣人たちばかりですが、中にはロボに心底惚れている者、崇拝している者とさまざまなんです」


 獣の王であり、魔王であるロボと戦い勝てた者は数少ない。

 敗北者の多くが彼女の下についた。だが、ボーウッドは違った。ロボにいつか必ず勝つと決め、下につくことなく挑み続けた。

 その意気込みを評価されたのか、ロボが名を覚えていた数少ない獣人だった。


 ロボを王として、または異性として慕う獣人たちには、ボーウッドが面白くない存在であることは理解できる。

 しかし、サムとしても、全員ではないだろうが獣の国の獣人たちよりもボーウッドのほうが好感を抱くことができると思った。


「とりあえず、面倒臭いので獣人たちから話を聞いて場合によってはぶっ飛ばして帰ってもらいましょう」

「あ、それでいいんだ」

「いいんです。もちろん、サムが獣人たちを無条件に受け入れたいのならやめますが」

「さあ! ぶっ飛ばすぞ!」


 えいえい、おー! とサムは腕を上げた。

 友也はサムに苦笑しつつ、転移を発動するのだった。






 〜〜あとがき〜〜

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