9「友也の相談です」②
サムは、厨房を借りて、かつて訪れた日の国で手に入れた小豆を使い赤飯を炊くと部屋に戻ってお茶碗をそっと友也の前においた。
「いただきます」
「う、うん」
ツッコミをせずもぐもぐ食べ始める友也に、サムも習って赤飯を食べる。
お米も日の国で手に入れたものだ。
なかなか食べる機会がなくアイテムボックスの中に突っ込んであったのだが、まさかこのようなタイミングで食べるとは思わなかった。
もうひとりの同郷である霧島薫子も食べたいと思い、多めに炊いた赤飯をアイテムボックスに入れてある。
しばらく無言で食べ続けるふたり。
沈黙に耐えられなくなり、サムが恐る恐る声をかけた。
「で、でもさ、念願の童貞卒業なんだから、いいんじゃない?」
「酔ったせいで覚えていませんでした。気持ちいいとかどうこうではなく、記憶そのものがすっぽりないんです」
「あー」
「もしかしたら童貞ではなくなった僕は魔王として弱くなったかもしれません」
「童貞にそこまでの効力はないでしょう! え? あるの?」
「わかりません。しかし、可能性があるでしょう?」
「あるかなぁ?」
「なによりも。長年連れ添ってきた童貞を失ったという喪失感が大きいのです。例えるなら、手足を一本失ったような」
「一千年以上童貞だと、存在感がそんなに大きくなるの!?」
「奥さんが何人もいるサムには僕の気持ちはわからないんですよ!」
「えっと、酔っ払ってないよね? 素面だよね?」
「飲んでなんかいませんよ!」
これほど感情を顕にしている友也も珍しい。
もしかして、マクナマラが嫌だったのか、と心配になってしまう。
「……サムがなにを考えているのかわかります。僕は、別にマクナマラさんが嫌だって訳じゃないんです。そりゃ僕よりも外見は年上ですが、話していてなんていうか楽しいですし。年上に見えますが、カラッとしているので付き合いやすいですし」
「なんで年上って二回言ったの?」
「僕が悲しいのは、初体験の記憶がないことです! 僕の理想は、素敵なホテルのスイートルームで始まりから終わりまでいちゃいちゃしたいです! 寝起きにモーニングコーヒーなんて飲んで、ちょっとお互いに気恥ずかしくて……そんな甘酸っぱい初体験がよかったんです!」
「え? きも」
「……い、今きもって言いませんでしたか!?」
「きのせいだよー。そんなことおもってないよー」
「……ならいいですけど。とにかく! 時間を巻き戻して!」
「いやー、無理でしょう。あと、そんなに嫌がったのなら、マクナマラおばさんがかわいそうじゃないかなぁ。向こうだって、初めてだったんでしょう?」
正直、サム的には友也の童貞の重要性が理解できない。
いや、仮にできたとしても理解などしたくない。
「わかっています。それも申し訳ないです。マクナマラさんがいくら行き遅れだったとしても、年増だったとしても、素敵な夜を過ごすべきでした。僕なんかと酔った勢いでなんて……」
「あー。そっちも気にしているんだ」
「サム……君ならば僕が今後どうすればいいのか、道を示してくれると思って……」
「えー? うーん」
サムは酔った勢いで――という経験がないので言葉が出てこない。
責任を取ればいいんじゃない、と言いたいのだが、それもなにか違う気がする。
友也にとって適切な言葉を考えていると、サムの部屋の窓が勢いよく開かれた。
「話は聞かせてもらったよ! 望まぬ童貞喪失のことなら、先輩である僕になぜ相談しないのか!」
頭と肩に雪を積もらせたギュンターが窓から部屋の中に入ってきた。
「もしかしてずっと外にいたの?」
「……うん」
「早く中に入って暖まりなよ。暖かいお茶飲む?」
「……うん」
雪まみれになったギュンターを部屋の中に招きながら、なぜ結界を使っていないのか気になったが、きっとしょうもない理由だと思うので聞かずにした。
サムは、ギュンターのために紅茶と、着替えを用意してほしいとメイドさんにお願いしたのだった。
〜〜あとがき〜〜
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