4「ストレスが溜まってかもしれません」





「ギュンターぁああああああああああああ!」

「すまない! ……まさかこれほどとは!」


 慌て叫ぶサムと、驚嘆するギュンター。

 サムは、マイムを再び殴ろうとしているヴァルザードを止めようとする。

 改めてマイムに結界を張ったが、ヴァルザードの攻撃で破壊される可能性は大いにある。


「ボーウッド! ゾーイ! そいつを回収しろ!」

「了解です!」

「ああ!」


 ヴァルザードの前に立ち、彼の拳を受け止めた。

 一応、マイムを殺さない程度には理性が働いたのだろう。しかし、彼の攻撃は重い。

 受け止めたサムの腕が砕け、激痛が走る。だが、サムはそのままヴァルザードに抱きつき、動きを強制的に止める。


「落ち着け、ヴァルザード。気持ちはわかるが、殺す価値はない。駄目だ、冷静に戻れ」

「ふううううっ!」

「ヴァルザード! お願い、落ち着いて!」


 エリカもヴァルザードに訴えるが、一度興奮状態に陥ってしまった彼に耳に声が届いていないようだ。


「友也! 転移、転移してくれ!」

「どこにですか!?」

「どこでもいいから! 暴れても問題ない場所だ! ヴァルザードは一度暴れないと駄目だ!」

「わかりました。転移させます!」

「私も行くわ!」

「僕もさ!」

「俺も行くぜ!」


 友也が魔法陣を展開すると、エリカがヴァルザードにしがみつき、ギュンターとボーウッドが続いた。


「こいつは任せておけ。治療をして、ジョナサンに話をしておく」

「ありがとう、ゾーイ!」

「うむ」


 頼りになるゾーイに礼を言い、サムたちは転移された。






 ■






「っと!」


 転移先は、何もない雪が舞う草原だった。


「ここなら地形を変えたって構いません!」

「近くに住民は!?」

「僕が滅ぼしてから誰も住み着いていないからご安心を!」

「さらっとすごいこと言うなぁ!」


 エリカにまず離れるように目で合図すると、ボーウッドが彼女を背後に庇って距離を取る。万が一のときには、彼が盾になってくれるのだろう。


「サム、気をつけたまえ。怒りに我を忘れているヴァルザードは、おそらく――」

「わかっているよ! あと、非常事態に尻触んな!」

「おっと、失礼!」


 ギュンターも距離を取り、エリカをはじめ自分たちを囲うように何重もの結界を張り巡らせる。

 これほどギュンターが結界を重ねたのは、サムが知る限り初めてだ。


「クリーママ専用結界さ。これを破れる者はママしかいない!」

「すでに破られてるじゃん!」


 ツッコミながら、サムはヴァルザードの身体を離した。

 刹那、蹴りが飛んできてサムの腹部に直撃する。

 身体が浮くが、足を離さないことで吹っ飛ばされるのだけは回避した。


「……わかっていたけど、ヴァルザードは魔王そのものだ。いや、下手すれば俺よりも魔王だ」


 超速再生がなければ、死んでいただろう。

 血を吐き捨て、距離を取る。

 幸いなことに、ヴァルザードはサムを一点に見つめている。

 しかし、その目には怒りが宿り、正気ではない。


「悪かったな、気づいてやれなくて」


 彼の瞳には、怒り以外にも様々な感情が見てとれた。

 思い返せば、スカイ王国に来てからヴァルザードはずっとおとなしかった。

 見た目青年の彼に使う言葉ではないが――いい子だったのだ。


「ずっと我慢していたんだろうな。家族のことを心配し、慣れない生活、新しい日々。ストレス溜まるよな」


 ヴァルザードはいい子すぎた。

 夜、魘され、泣いていることもあると聞いている。

 肉体は青年でも、精神面で子供ならば、環境の変化、家族の心配を抱えて大変だっただろう。しかし、エリカにも、誰にも言えなかった。いや、もしかしたら、自分でも気づいていなかったのかもしれない。

 そんなとき、マイムが現れエリカに平手打ちをしようとした。未遂に終わったが、ヴァルザードの感情が爆発するきっかけになるのには十分だったはずだ。


 ならば、サムのしてあげられることは少ない。


「いい機会だ! ずっと溜まっていたモヤモヤをすべて発散しちゃおうぜ!」

「うわぁあああああああああああああああああ!」






 〜〜あとがき〜〜

 次回、サムVSヴァルザード!




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