3「元婚約者が来たそうです」③
「……ヴァルザード」
エリカは、まずい、と思った。
ヴァルザードにとって見知らぬ男にエリカが腕を掴まれている光景はお世辞にもよろしくないものだ。
すでに怒りを露わにしている彼に、落ち着くように言葉をかけようとするが、それよりも早くヴァルザードが動いた。
「エリカお姉ちゃんに何をしているんだ!」
濃密な魔力がヴァルザードとから吹き上がると同時に、控えていたギュンターが玄関を覆うように結界を張った。
ヴァルザードの魔力に耐性があるエリカでさえ、気を抜いたら足から崩れ落ちそうな魔力だというのに、マイムは平然としていた。
「……君がエリカの……なるほど。それにしても、ふふふ。エリカも悪い子だ。愛人にお姉ちゃんと呼ばせるなんて」
「馬鹿! そんなことを言っている場合じゃないでしょう! ヴァルザード、落ち着きなさい! サム、ギュンター、ボーウッド! 魔王様! 止めて、止めてちょうだい!」
ヴァルザードの怒りが頂点に達しないうちに止めてほしいとサムたちに訴える。
すると、サムとギュンターがジェスチャーで、ヴァルザードの周囲に結界を張ってあることを伝えてくれた。
エリカはホッとする。
ヴァルザードは怒りを耐えているのではなく、すでに結界に覆われているので身動きが取れないのだと知ると、安心した。
エリカが知る限り、ギュンターの結界を無理やりどうこうできる者はサムやロボくらいだ。これで、万が一ということはないだろう。
エリカは別にマイムを案じたわけではない。
ヴァルザードがマイムのような男を傷つけ、後で後悔してほしくないだけだった。
「あのさ、君が誰か予想はできているけど、できているからこそその手を離してほしいな」
サムがこちらに近づいてきて、マイムを睨む。
彼の顔にも怒りが現れていた。
「婚約破棄されたことに思うことがあるのは、まあ仕方がない。でもさ、君にも問題があったみたいじゃないか。せっかく世間体にはエリカがわがままを言ったってことにしてくれてあるんだから、問題を起こすのは感心しないな」
「――サミュエル・シャイト」
「友達じゃないから、気安く名前を呼ばないでほしいんだけどね。あと、早く、その手を離せ。エリカは、俺の大切な家族であり、姉のひとりだ」
威圧を込めたサムの視線から逃れるように、マイムは手を離し、そして――エリカに平手打ちしようとした。
意表を突いた行動にエリカは反応できなかった。
まさかここで自分を引っ叩こうとするとは思わなかったのだ。
しかし、マイムの手は届かない。
「――お前、いい度胸しているな」
なぜなら、マイムの腕をサムが掴んでいたのだ。
「ぼ、僕は悪くない! 貴族なら女遊びくらいするだろう! サミュエル・シャイト! お前だって、妻が何人もいるくせに! 全員を愛しているとでも言うつもりかぁ!」
「お前に理解を求めていない。とりあえず――」
サムがマイムの腕を掴んでいない拳を握りしめた。
エリカにとって残念なことではあるが、マイムにはもう話が通じない。
今回のようなことがないように父に釘を刺してもらい、事を治めよう。
エリカにもヴァルザードを優先したという非があるが、マイムにだって結婚前に女遊びをし、婚約者がいる女性にまで手を出したのだから。
「うわぁああああああああああああああああああああ!」
マイムがサムの手によって殴り飛ばされると思っていたエリカは、ヴァルザードの絶叫に驚き、目を向けた。
それはサムもマイムもゾーイたちも同じだった。
次の瞬間。
ガラスが砕けるような音が響き、ギュンターが張った結界が砕けた。
「――馬鹿な。サム対策に作り上げた、僕の結界を砕いただと?」
ギュンターが目を見開いたわずかな時間に、ヴァルザードが地面を蹴った。
「よくもお姉ちゃんをっ!」
地面が陥没し、ヴァルザードの姿が消えると、瞬く間にマイムが殴り飛ばされ吹っ飛んだ。
マイムの身体はギュンターの張った結界に激突し、力なくその場に倒れた。
〜〜あとがき〜〜
マイムくんは死んでいません。ヴァルザードくんは手加減をしましたので、なんとかなる範疇です。追撃がない事を祈りましょう。
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