十四章
プロローグ「三週間が経ちました」
ヴァルザード・サリナスがスカイ王国で生活を始めてから三週間が経過した。
彼は日々健やかに成長している。
スカイ王国にも本格的な冬が訪れ、息が白くなる。
ヴァルザードの首には、エリカが編んだマフラーが巻かれていた。あまり器用ではないエリカが姉たちに習って一生懸命に編んでくれたものだ。ヴァルザードにとって、掛け替えのない宝物になったことは言うまでもない。
「――みんなは元気かな」
思い馳せるのは、どこにいるのかわからない家族たちのことだ。
ウォーカー伯爵家、イグナーツ公爵家をはじめ、スカイ王国の人たちはとても優しくヴァルザードを家族としてくれる。ヴァルザードもそんな彼らを家族だと思っているが、それでも一番大切な家族は母と弟妹たちだ。
これほど長い間、顔を合わせず、声も聞けず過ごしたことはない。
肉体的には青年だが、精神面ではまだ幼くあるヴァルザードが夜中に魘され、泣いていることもある。その都度、エリカが優しく抱きしめてあやしてくれている。
「ヴァルザード、こんなところにいたのか」
「……ボーウッドくん」
ウォーカー伯爵家の屋根の上にいたヴァルザードを、友人であり兄のような存在であるボーウッドが呼びにきてくれた。
獣人である彼は、スカイ王国の寒さは平気なようで、薄着だ。
近所の子供たちからは「もふもふおじさん」として人気が高く、ちょっと街に出かけるとあっという間に子供たちに囲まれる人気者だ。
もちろん、ボーウッドが慕われるのは獣人だからではない。彼は、人当たりが良く、面倒見がいい。誰にでも頼れる兄貴分であることを自然体に出すことができるのだ。
彼と接するれば、すぐに親しくなれる。ボーウッドはそう言う男だった。
ボーウッドの存在にもヴァルザードは救われていた。
利用し、裏切ったことのあるヴァルザードを許し、友として触れ合ってくれる。許す、という行為は簡単のようで難しい。ボーウッドは、本来ならば死んでいたほどの傷を負わされながらヴァルザードを許した。誰でも真似できることではない。
「兄貴も、ギュンターも待っているぜ。今日は、男だけで出かける予定だっただろう?」
「そうだったね」
屋根から中庭を見下ろせば、カーキ色のジャケットを羽織ったサムと、グレーのコートに身を包んだギュンターがいる。
ふたりも大切な友であり、家族だった。
「ママ、みんな……僕は元気でやっているよ」
ヴァルザードは、家族への想いを抱きながらスカイ王国での日々を過ごす。
再会したときに、胸を張って成長したと言えるように。素晴らしい出会いがあったのだと誇れるように。
――彼の成長は続いていくのだ。
〜〜あとがき〜〜
十四章のはじまりです。
お付き合いよろしくお願い致します。
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何卒よろしくお願い致します!
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