77「産まれるそうです」③






 フェニックスの雛は、翼を広げると「くけー!」ともう一鳴きした。そのまま、視線をくるりと回し、サムとギュンターを見てから「ぺっ」と唾を吐き「ないわー」と言わんばかりに失笑する。


「こ、こいつ、俺とギュンターを同類に扱いやがった! 焼き鳥にしてやる!」

「いい子じゃないか。僕とサムが通じ合っているのだとよくわかっているようだ。あとで、最高級の餌を届けることを約束しよう」

「人生で一番の屈辱だ!」

「酷くないかな! でも気持ちいい!」


 続いて、ワクワクしているアリシアとステラを見て、「キープ」みたいな鳴き声をした。

 ちょっとがっかりするふたり。

 ボーウッドとエリカも悩ましいようで、フェニックスの雛は悩む素振りをしている。


「まさかとは思いますが、誰を親にしようか品定めしているのですか? ……太々しい魔獣ですね」


 呆れる友也の声に釣られるようにフェニックスの雛が、彼に視線を向けた。

 じぃっと見ているので、みんながまさかと思う。だが、しばらくして「はぁ」と嘆息し、翼を広げてやれやれと首を振るった。

 残念ながら友也も駄目のようだ。


「こ、この鳥風情が」


 あまりにもの態度に、友也の顔が引き攣っている。

 そして、フェニックスの雛はヴァルザードを見た。

 じぃっと食い入るように、なにか感じ取るように一分ほど瞬きもせず眺めている。


「くけー!」


 翼で器用に丸を作ると、合格だと言わんばかりに大きく鳴く。次の瞬間、翼に炎が宿る。

 雛だった姿も、四十センチほどに大きくなると、翼を羽ばたかせてヴァルザードの肩に飛び乗った。


「うわっ。え? え? どういうこと?」


 驚くヴァルザードの肩に乗ったフェニックスは、親愛を込めて頬擦りをしている。

 おそらく、親か保護者にヴァルザードを選んだのだろう。


「うぅぅ、お母さんになれませんでしたわ」

「でも、ヴァルザードの肩で幸せそうにしているのですから、見守りましょう」


 自分が親に選ばれなかたアリシアとステラが落ち込んでいる。

 だが、フェニックスはヴァルザードの肩から飛ぶと、アリシアの腕の中に飛び込み、胸に頬擦りをした。


「まあまあ!」


 喜び破顔するアリシアの腕の中から、ステラに翼で「おいでおいで」すると、彼女の頬を舌で舐める。

 どうやらヴァルザードを一番の親に、そしてアリシアとステラのことも気に入ったらしい。


「あら、可愛らしい子」


 ふたりともご満悦のようだ。

 サムもフェニックスには興味津々だが、手を伸ばそうとすると「くけー!」と威嚇されてしまうので触れることはまず無理だろう。


(――ま、アリシア、ステラが楽しそうならいいか。ヴァルザードもなんだかんだで悪い子ではないし、このまま平和に暮らしていてくれればって思うんだけど、いつまでこの平和な時間が続くんだろうな)


 神聖ディザイア国、元魔王オクタビア・サリナスを操る謎の男、そして女神の問題もある。

 サムたちが、本当の意味で平和な日々を送るには、これらを片付けなければならない。


(神聖ディザイア国も手を出してこないし、はてさてどうなることやら)





 〜〜あとがき〜〜

 コミック1巻好評発売中です!

 何卒よろしくお願い致します!

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