76「産まれるそうです」②





「ステラ様……やはりここは動物たちと心を通じ合わすことができるわたくしが親になるべきかと思いますわ」

「アリシア……愛情を持って接することができるならばわたしにも親の資格はあると思われます」

「あの、ふたりとも」


 普段、仲がいいアリシアとステラが、こうやって睨み合うのは新鮮だ。

 アリシアは、控えめな性格をしているので誰かと争ってまで意見をしようとしない。ステラもいつもにこやかに家族で仲良くすることを第一に考えている。

 そんなふたりが火花を散らしていることは驚きだが、新しい一面を知れてサムはちょっと嬉しい。


「では、サム様に決めていただきましょう!」

「いいでしょう! サム様、公平なジャッジを!」

「えぇ!? そ、その前に、どんな魔獣が生まれるのとか、危険性のある無しや、他にももっと気にすることがあるんじゃ」

「大丈夫です。一番の懸念でした、生まれるときの対処はボーウッド様のおかげで解決しましたわ」

「種族もわかっています。――フェニックスです!」


 鼻息荒く魔獣の種族を口にしたステラに、サムはびっくりした。

 フェニックスは魔獣の中でもトップクラスに高い戦闘能力と知性を持つ生物だ。

 獣人よりも竜に近いと聞く。

 もちろん、希少性も高い。

 まさかダグラスがお土産としてフェニックスの卵を持ってきていたとは知らなかった。


「――フェニックス、だと?」


 サムは内心動揺する。

 前世の日本において、フェニックスは架空の生物だ。

 地域によって、悪魔だったり、神獣であったり、他の呼び名もある。

 異世界に転生してから、今まで、サムはフェニックスと出会ったことがなかった。

 しかし、まさか、こんな身近に居たとは。


「――俺が母親になりましょう!」


 興奮気味に手を上げたサムに、「え?」とアリシアとステラだけではなく、ボーウッドたちまで困惑の表情を浮かべた。


「い、いえ、あの、サム様にはぜひお父様になっていただければと」

「そうです。ギュンターではないのですから、別に母親に拘ってなる必要は」

「あ、そうか」


 反射的に口にしてしまったサムだったが、卵の世話をしていたふたりになり変わって親になろうとするほど図々しくない。


「サム。そんなにママになりたかったら、今すぐ僕が産んでみせよう」

「無茶言うな!」

「愛の前に不可能なんてないさ!」


 サムの肩をぽんと叩いたあと、揉みながらギュンターが微笑む。

 女体化していたとしても、今すぐ子供を、しかも魔獣を産めるはずがない。


「――すごいや。ギュンターは子供まで産めるんだね!」

「ちょ、ギュンター! ヴァルザードが変態になったらどうするの! この子の前では、発言に気をつけなさいよ!」

「……心から申し訳なく思う」


 変態性が高い故に、誤解されやすいが、ギュンターは気配りのできる男だ。

 まっさらなキャンパスのようなヴァルザードをさすがに自分色に染めるつもりはないようで、エリカに叱責されて素直に謝罪した。


「あ、あの、兄貴」

「どうしたの?」

「愉快な会話をしている間に……卵にヒビが」

「え?」


 ボーウッドが指を指すと、アリシアの腕の中にある卵にパキパキと音を立てて日々が入っていく。

 サム、ギュンター、アリシア、ステラ、エリカ、ヴァルザード、ボーウッド、友也が注目する。

 そして、


「ぽっぽー!」

「いや、その鳴き声はないだろ!」


 可愛らしいと言うべきか、間の抜けたと言うべきか。

 サムの想像するフェニックスとは違う鳴き声をあげて、真っ赤な体毛を持つフェニックスの雛が孵ったのだった。







 〜〜あとがき〜〜

 サム的には「ぐるわぁあああああああああ!」みたいな感じがよかったです。


 コミック1巻が25日に発売致しました!

 ぜひお手にとっていただけたら幸いです!




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