69「エリカとヴァルザードです」①





 ヴァルザード・サリナスがウォーカー伯爵家で生活を始めてから一週間が経った。

 彼に関して、基本的にエリカとボーウッド、毎日顔を見せるギュンターが面倒を見ている。


 ヴァルザードはエリカのことを「エリカおねえちゃん」と呼びしたい周囲をほっこりさせていたが、ギュンターのことを「ギュンターお兄ちゃん」と呼んで周囲を戦慄させていた。

 ボーウッドに関しては「ボーウッドくん」と呼んでいるが、獅子族の獣人は「ダチだからな」と嬉しそうだ。


 お兄ちゃん専門家であるダニエルズ兄妹は「奴からお兄ちゃん力を……感じない、だと?」「さすがギュンギュンだ。やべぇぜ」「むしろボーウッドから兄力を感じる」「ボーウッドのやつも次のステージだな!」と違う意味で困惑させていた。


 ヴァルザードは、最初こそ少し戸惑いを覚えていたようだが、今はなんとか普通の生活をしている。家の人たちも最初こそ警戒があったが、エリカが無条件に可愛がっている姿や、お行儀がよくきちんと「ありがとう」が言えて、メイドたちにも懐いてきた彼を好ましく思っているようだ。


 オクタビア・サリナスは、魔王としてはさておき母親として立派に役目を果たしていたようだ。


 ヴァルザードが生活することを事後承諾になってしまったジョナサンとグレイスだが、意外と二人は平気だった。

 ジョナサンは「サムが王都にやってきてから繰り返されたイベントに鍛えられたよ」と笑い、グレイスは「可愛い子じゃありませんか」と受け入れてくれた。そんな二人をヴァルザードは「おじさん」「おばさん」と慕っている。


 彼の一週間の生活を見ていると、人との接触、愛情、普通の生活に飢えていたように思える。

 肉体は青年だが、心は子供であるのだから、好奇心旺盛なのだろう。

 ときどき危うく力を使いそうになってしまう面もあるが、エリカがぴしゃりと叱ると、ちゃんと言うことを聞くので心配は杞憂のようだ。


「あのふたり、怪しいと思うのよ」


 そんなことを言い出したのは、ベッドを共にしていたリーゼだった。

 少しお腹が膨らんできた彼女は、同時に柔らかな母性に溢れるようになっていた。

 もともと面倒見が良く、サムがウォーカー伯爵家に訪れたばかりのときも、誰よりも気にかけてくれた優しい人だ。そんな彼女だからこそ、良い母になるとサムは信じて疑っていない。

 ただ、やはり若い女性であるため、恋愛のお話が好きだった。


「……誰と誰ですか?」

「エリカとヴァルザードよ!」

「いやいや、さすがにそれはないでしょう」


 サムが苦笑して否定して見せるが、リーゼは割と真面目な顔をしていた。






〜〜あとがき〜〜

コミック1巻、2/25発売です!

何卒よろしくお願い致します!

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