61「荒ぶるクリーです」①
「戻ってきたぞー!」
ダークエルフの集落から帰還したサムは、なんだかんだと時間が経過してしまったことに苦笑しつつ、戦いばかりで疲労した身体を思い切り伸ばした。
「良い勉強もできたから、エヴァンジェリン様にも共有しないとね」
「……薫子さんがどんな勉強をしたのか気になりますが……まあいいでしょう。それよりも、僕はしばらく隠れようと思います。まさか童貞を喪失する事態になるとは……守り抜かなければ」
「え? 守り抜くものなの!?」
「……そういえば、守るほどのものではなかったですね。一千年以上の付き合いなのでつい」
おバカなやり取りをする薫子と友也に、サムとダフネが笑った。
「ところで、ぼっちゃま」
「どうしたの、ダフネ?」
「聞こえないふりをしているようですが、王都に響き渡るずんどこずんどこ鳴り響く太鼓の音はなんでしょうか?」
「できれば聞こえないふりをしていてほしかったなー」
サムの耳にも、太鼓の音が聞こえている。
奇しくも、イグナーツ公爵家の方から聞こえてくるのが怖い。
「まさか、またギュンターくんがなにかしでかしているのではないでしょうか?」
友也が不安になるようなことを言うので、ギュンターがどこにいるのか魔力を探ってみる。彼は特徴のある魔力をしているので、すぐに見つかると思っていたのだが。
「――あれ? ギュンター、王都にいないんじゃね?」
魔力を探ってみても、ギュンターの魔力が王都で見つからない。
「あら。本当ですね。ギュンター様ならばぼっちゃまの帰還に大喜びして登場すると思っていたのですが」
「……いつものことだもんね」
「サム。あまり気が進みませんが、イグナーツ公爵家に行ってみてはどうでしょうか?」
「そうだね。そうしよっか」
友也の提案に、サムは渋々頷いた。
結局、ダフネと薫子も揃ってイグナーツ公爵家へ向かうこととなる。
そしてしばらく歩き、公爵家についたサムたちは唖然とした。
「なぁに、これぇ!?」
イグナーツ公爵家を人々が取り囲み、太鼓をどんどこ叩き、笛をぷぺーと吹き、ドレスを着飾った男女が踊り狂うという異常な光景だった。
「……えっと、盆踊りかなにかかな?」
「こんな盆踊りは嫌だ!」
「同感です」
薫子が必死に似たような光景を口にしてみたが、太鼓の音こそ似ているが、なんか違う。
しばらく呆然と眺めていると、
「くぇえええええええええええええええええええええ!」
まるで怪鳥の雄叫びみたいな声が鳴り響いた。
とても聞き覚えのある声だった。
「クリーだな」
「クリーちゃんね」
「クリー様です」
「クリーさんですね」
全員が顔を見合わせ、頷く。
口に出さずとも関わらないことにしようと決めた瞬間だった。
だが、その時だった。
「――サム! サムではないか!」
「あ、イグナーツ公爵様」
ギュンターの父ローガン・イグナーツに見つかってしまった。
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