53「愛の魔法があるそうです」①
魔力も体力も尽き果たし、再生能力も発動できないボロボロのサムの足を持って引きずってきたジャネットは、ぺいっ、と彼を投げるとその場に寝っ転がった。
「あー、つっかれたー」
「お疲れ様です。ジャネット様。お水です」
「ありがとー、ダフネっち」
ジャネットは嬉しそうに、ダフネから水をもらい、喉を鳴らして飲む。
ダフネと一緒に、友也と薫子もいた。
サムが訓練という戦闘を行っている間、薫子はダークエルフたちから魔法やテクを学び、友也はジャネットの抜けた穴を補うようにせっせと農業に勤しみ、夜になるとダークエルフたちから襲われ逃げ回っていた。
ダフネもダークエルフと一緒に生活していたが、時間があれば、ハラハラとしたようすで戦うサムとジャネットを見守っていたのだ。
「おーい、サムっちを回復してあげて」
「はーい」
ジャネットが声をかけると、ダークエルフたちが数名やってきて手際よくボロボロのサムに回復魔法を当てていく。
まるで超速再生のように治っていくサムの肉体から、ダークエルフたちはかなりの使い手なのだとわかる。
「う、うう」
「ぼっちゃま!」
「サムくん!」
「サム! 無事ですか!?」
ダフネたちか声をかけると、気絶していたサムが目を覚ます。
キョロキョロ周りを見渡して、自分の置かれた状況を理解し、残念そうに肩を落とした。
「負けちゃったか。もう少しだと思ったんだけどなぁ」
「あはははー。全然、まだまだだし」
サムとしてはいいところまで行けたと思ったようだが、全然のようだ。
「ダフネ、薫子さん、友也、心配かけてごめん。でも、意外と楽しくやってるよ」
「……ぼっちゃまらしくてなによりです」
「あんなにイキイキと戦う人って初めて見たわ」
「戦闘狂ですよ。僕みたいな平和的な紳士ではまず、真似できないですね」
心配してくれるダフネたちに謝罪を伝えると、ほっとしてくれた。
「ところでさー、サムっちと戦って気づいちゃったんだけどぉ。サムっちは力の使い方を間違っているって感じ?」
「は? どういうこと?」
力の使い方を間違えていると言われても、反応に困る。
今まで、このスタイルで戦ってきた。
魔法は特別得意なものはないが苦手なものもない。オールラウンダーであるが、師匠ウルが炎属性だったので炎を中でも得意とし、ウル対策に水属性魔法をかなり使えている。
それを間違っていると言われると動揺を隠せない。
「あー、なんつーか、炎属性も、水属性も別に使いこなせているから問題ねーんだけど。戦って、力を見て、はっきりわかったっしょ。サムっちの属性は――性属性だし」
「―――――え?」
「聖には性で戦えってね!」
耳を疑った。
いや、自分の正気を失った。
「いやいやそんな、馬鹿な、ことが」
「人間じゃあまり使い手がいないからねー。でも、サムっちの根本は性なんだってば。だから、闇も極められんーし」
「……性ってそんな」
全裸のギュンターとクライドが太陽が燦々と輝く海辺でおいでおいでしている光景が脳裏に浮かんだ。
ダフネたちもサムにどう慰めの言葉をかけていいのかわからずにオロオロしている。
「あ、間違っちった。サムっちの属性は、聖ね。聖属性。聖女と同じ属性っしょ」
「あぁああああああああああああああああああああ! よかったぁあああああああああああああああああああああああ!」
心底安堵する。
それにしても酷い間違い方だ。
内心、変態なのではないかと自分を疑ってしまった。
「ま、サムっちは聖属性のうんぬんも教えてあげるから。ダークエルフは闇属性だけど、聖属性にもくっそ詳しから安心していーよ。ついでに、人間だったころの女神が習得できなかった魔法も習得していくといいっしょ」
心臓をバクバクさせて安心している、サムの興味をそそる言葉に、思考を切り替える。
「女神が習得できなかった魔法って、そんなのあるの?」
「もちのろん」
「ど、どんな魔法!?」
子供のように瞳を輝かせるサムに、ジャネットは告げた。
「――愛の魔法っしょ!」
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