第十三章

1「祭りの始まりです」①





「さあ、城下町へいきましょう! みんなが待っているわ!」

「え? みんなって誰です?」


 サムの手を取り、満面の笑みを浮かべたリーゼにサムは首を傾げる。

 すると、ステラがサムの背後から肩に手を置いた。


「ふふふ。サム様ったら。一週間まえにお伝えしたではありませんか。サム様のお誕生日会をすると」

「え、ええ、聞いていました。聞いていましたよ。でも、なぜ城下町へ行く必要が?」


 戸惑うサムに、フランが眼鏡を光らせて、パチンっ、と指を鳴らす。


「ちょ、ま、え、なになに? なにが起きているの!?」

「ふ、フラン様? あの、水樹様、花蓮様、なぜわたくしの腕を掴むのですか?」


 オフェーリアを挟むように、水樹と花蓮が左右から腕を掴んだ。

 最後にアリシアがメルシーの頭を撫でて、にっこり。


「さあ、メルシーちゃんも参りましょう。ゾーイ様、カル様、ジェーン様もご一緒に。あ、お召し物をお着替えになるのであれば、ご準備してありますがいかがなさいましょう?」

「……嫌な予感がするのは私だけか?」

「自分は、いつも通りで構わないっす。美少女が着飾ったら、主役の座を奪っちゃいますからね!」

「私も同じく。着飾るのは得意ではありませんので、このままで結構です」


 不安に駆られるゾーイ、マイペースなカルとジェーン。


「メルシーもこのままでよいのだ!」

「ふふふっ。では、みなさま、参りましょう。きっと楽しいお誕生日会になりますわ、ええ、なりますとも」

「……アリシアの笑顔が引き攣って見えるのは私の気のせいだろうか?」

「ゾーイさんの気のせいじゃないっすねぇ。リーゼさん、フランさん、ステラさん、水樹さん、花蓮さん、みんな無理して笑っているじゃないっすか」

「つまり、サミュエル様のお誕生日会は……」

「とんでもないことになっているんだろうな!」


 ゾーイたちの言葉が耳に入ったサムは、顔色を悪くした。


「そういえば、帰ってくる日と時間帯を教えていたのに、奴がいない!」

「サム、気にしなくていいのよ。さあ、お誕生日を祝いましょう」

「リーゼ、待って待って! 奴は、ギュンターはどこです!?」

「……そんな子いたかしら?」

「すごく誤魔化されている! いや、そんな嘘はいいですから、奴がどこでなにをしているのか、教えてください!」


 サムの必死な様子に、リーゼは大きく嘆息してから、諦めたような顔をした。


「ギュン子なら、サミュエル・シャイト誕生祭の会場で、アイドルユニットとしてライブ中よ」

「なぁに、それぇ!?」


 リーゼの言葉は理解できたが、言葉の意味まで理解できなかった。

 おそらく、恐ろしいことになっているだろう。

 そもそもアイドルユニットってなんだ。

 誰が他にやっているんだ、と疑問ばかりが浮かぶ。


「あの、サム様、一応言っておきますが、皆様悪意はないのです。ただ、悪ノリしすぎたというだけで」

「ステラ……俺はその悪ノリが怖いんですけど」

「サム。諦めが肝心よ」

「いやぁあああああああああああああああああああ!」


 ステラの苦笑いと、フランがこっちを見ず諦めろと言った以上、彼女たちではどうにもならなかったことが起きていることになる。

 つまり、変態的な予感しかしなかった。


「いろいろと問題はあるのだけど、きっといい思い出になるわ。さあ、行きましょう。王都のみんながサムを今か今かと待っているわ!」

「ちょ、やめ」


 身重の妻を振り払うわけにもいかず、サムは抵抗できぬまま城下町に向かうのだった。





 〜〜あとがき〜〜

ついに祭りの始まりですわ!


新作も始めておりますので、ぜひよろしくお願い致しますわ!

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