64「友子の危機と出会いです」②





「はぁ、はぁ、はっ!」


 遠藤友子はスカイ王国王都を逃げ回っていた。

 セーラー服は破け、肌が露出してしまっている。

 背後からは、ゾンビのように群れとなって押し寄せてくる女性たち。


「ちくしょう! ギュンターくんと竜王殿が厳重に王都に結界を張ったせいで転移できない!」


 竜王と変態のタッグに、実はクライド国王陛下までが絡んで王都に厳重な結界を張り巡らせていた。

 本人たちは、友子を逃さないためではなく、招いていない外部の人間を入れて今来を招かないようにと、サムが準備を終える前に帰ってこられないようにするためだ。

 だが、まさか、その結界のせいで友子が、魔王になって初めて追い詰められることなるとは思いもしなかっただろう。


「……このままではお嫁にいけなくなってしまいます!」


 今までスケベってきたやつがどの口で言うのか、と突っ込まれそうなことを言うが、残念ながら彼女の言葉を耳にするものはいなかった。

 身体能力なら魔王としてかなりあるほうだが、女体化したせいか、動きが鈍い。バランスがうまく取れず、ぎこちない動きしかできないのだ。


「なぜあの変態は女体化して平然としていられるんでしょうね!」


 すでに暴徒と化した国民にボッコボッコにされたギュンターに悪態をつきながら、友也は当てのない逃亡を続けた。


「見つけたわ!」

「……やりますね、スカイ国民。まさか先回りをされるとは思いませんでした」


 友子を待ち受けていたのは、美しいブロンドのロングヘアーを伸ばし、煌びやかな衣装に身を包んだ二十歳ほどの女性だった。


「覚えているかしら? 先日、わたくしを公衆の面前で辱めておきながら、責任を取らない悪い子さん」

「……申し訳ございません。心当たりがありすぎて」

「あら、本当に悪い子ね。男の子には興味がなかったのだけど、女の子になったのなら、お詫びをしてもらいましょう」

「……一応聞いておきますが、お詫びとは?」


 女性はどこからか取り出した桶に手を入れて、素早くかき回す。すると、滑りを帯びた粘液が溢れた。


(――ローションだぁああああああああああああああああああ!)


「女体化しただけの男の子にはわからない未知の快楽を教えてあげるわ。あなたって、好みの顔をしているもの」

「いやだぁあああああああああああああああああああ!」


 粘液を溶きながら、迫り来る女性に、友子は恐怖を感じた。

 間違いなく捕まれば、大変なことになる予感しかしない。


「まてい!」

「――誰!?」


 なぜか近くの民家の屋根に登っていたのは、まだ幼さが見え隠れしている少女だった。

 フリルのあしらわれたミニスカートを履いた、可愛らしい亜麻色の髪の子だった。


「女体化した男だからこそ、分かり合えるものがあるのだ! その少女を私に譲ってもらおう!」

「いやぁあああああああああああああああああああああ!」

「わたくしの獲物を奪おうというの?」

「ふっ、なに、彼は私と息子と孫を公衆の面前で辱めたのだから、責任を取ってもらわないとね。なに、紳士の嗜みとして、軽く調教を味わってもらうだけさ。二度と男性に戻りたくないくらいにはしてあげよう」

「孫がいる方が少女になって、とんでもない復讐をしようとしているぅうううううううううううううう!」


 友子を挟んで男女が睨み合う。


「――あなたはまさか、モーゼス卿ね?」

「そういう貴方は、ミス・ローズベル殿とお見受けした」

「いやぁ! まさかの知り合い!? ――はっ、ふたりが潰し合えば、僕は逃げられるのでは?」


 心の中で潰し合え、と祈る。

 だが、友子に神は微笑まない。


「モーゼス卿。わたくしはあなたと争うつもりはありません」

「私もだよ、ミス」

「……ならば」

「うむ。共闘といこうではないか!」

「変態と変態が組みやがった! もうだめだ! この世界は終わりだ!」


 最悪の場合は、自分の純潔を守るために魔王としての本気を出すしかない。


(まさか、魔王として初めての本気が変態に追い詰められたせいで使うことになるとは思いませんでした。神聖ディザイア国を潰すときのために取っておいたのに)


 一般市民へ魔王として本気を出そうと友也が悩んだ時だ。



「この国では女が女を襲うのか? おかしな国だと聞いていたが、本当におかしい国だ。いや、狂っているのか?」


 女性の声が響き、カツカツと踵を鳴らして、三十代後半の黒髪の女性が現れた。


「あら、あなたもこの子を狙っているの?」

「貴方もご一緒しますか?」

「私には少女を拐かす趣味はない!」


 女性は、軽く地面を蹴ると、一瞬にして友子の背後に周り、抱きかかえた。


(……なかなか早い)


 友子をお姫様抱っこする女性は、そのまま大きく跳躍し、あえて戦わずに、逃げる選択をとった。


「しまった!」

「おのれ! ものども、であえい!」


 まだ諦めていない変態どもの声が聞こえるが、無視をする。

 それよりも、友子は、どこか覚えがあるが、思い出せない女性に尋ねた。


「危ないところをありがとうございました。その、あなたは?」

「私はマクナマラ・ショーン。通りすがりの、騎士だ」






 〜〜あとがき〜〜

 来ちゃいましたわ!




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