62「アンデッドです」②
「……いや、オフェーリアと村人たちを頼む。あ、でも、ひとつだけ教えてほしい」
ジェーンの言うように、彼女に任せたら簡単にことは終わっただろう。
しかし、それは何か違っている気がした。
「どのようなことでも」
「問題ない方角は?」
「あちらです」
「ありがと」
短い問いかけだったが、サムの意図したことを汲みとり返事をくれる。
魔力を高めて、ジェーンとオフェーリアに背を向けた。
「ご武運をお祈りしています」
「サミュエル様、無理をせずように!」
「ああ、ありがとう!」
片腕を上げて、手を振るサムの隣にメルシーがジャンプして並んだ。
「メルシーもいくもん!」
「ああ、一緒にいこうか」
「うん!」
さすが竜だ。メルシーはアンデッドの群れを前にしても、散歩に出かけるくらいの感覚でニコニコしている。
きっと将来は大物になるだろう。
「まずは、アンデッドどもをぶっ飛ばすか」
「ぶっ飛ばすかー!」
サムは魔力を高める。
視界いっぱいに生み出されたアンデッドをひとつに集めたい。
(ちょっと目を話した間に、千を超えたな)
少なくとも、サムの攻撃で被害が出ない方角に移動させたかった。
「――大気の壁よ、ぶっ飛ばせ!」
風が不可視の壁となってアンデッドたちにぶつかり吹き飛ばす。
千を超えるアンデッドの三分の一を吹っ飛ばすことに成功した。
「意外に難しいな」
「サムパパ! メルシーちゃんにお任せだよ!」
「できる?」
「うん!」
自信満々のメルシーに任せてみることにした。
子竜だった彼女が、大きな竜になったということは人の姿をした状態でも変化があるかもしれない。
母親の灼熱竜は未だ戻らず、アリシアもここにはいないので、サムがしっかり成長を見届ければならない。
「よし頑張るぞー! むむむむっ、メルシーちゃん……えっと、風!」
技名は思いつかなかったようだ。
そんな可愛らしいところに笑っている余裕もなく、サムは冷や汗を流した。
なぜなら、アンデッド全てを魔力の風で宙に巻き上げてしまったのだ。
魔法ではない。魔力こそこもっていたが、あくまでもメルシーの力だ。
これで魔法などを使えるようになったら、どれほどの力になるのかと思うだけで背筋が凍る。
ただ残念なのは、妹、いや、娘のように可愛いメルシーと戦うことだけはないだろう。さすがのサムも彼女を傷つけることなどできそうもない。
それだけがちょっと残念だった。
「す、すごいな、メルシー」
「ふふん! メルシーちゃんはすごいのだ!」
胸を張るメルシーの頭を撫でていると、ちょうどいい方向にアンデッドが落ちていく。
ぐしゃ、ぐちゃ、べきっ、と嫌な音を立てて地面にシミを作っていくが、グロテスクな状態になっても死んでいないようだ。
いや、アンデッドはすでに死んでいる。活動を止めるには、完全に破壊尽くすしかない。
「よし、じゃあ、さくっと片付けますか」
「片付けますかー!」
指を慣らしてサムが力を込めると、右腕に力を溜めた。
メルシーも大きく息を吸い込む。
せーの、とふたりは揃って、今できる最高の一撃を放った。
「ちょうど試したい技があったんだ――スベテヲキリサキクライツクセ」
「メルシーちゃん、ビームっ!」
横に薙いだサムの右腕から、十八番である『スベテヲキリサクモノ』とレプシーの吸収能力を融合させた一撃を放った。
メルシーの口から、真っ赤な閃光が放たれた。
千を超えるアンデッドの左半分は、サムの一撃によって斬り裂かれ、食われた。
右半分は、メルシーの真っ赤な閃光に飲み込まれて全て灰になった。
魔王と竜の一撃は、アンデッド千体では敵ではなかった。
「俺たちを相手にしてけりゃ、万は連れて来い」
「連れてきやがれー!」
抉られ、焼け爛れてガラス状になった大地を背後に、サムとメルシーはすっきりした顔をした。
〜〜あとがき〜〜
反乱を解決して、ワンクッション挟んで、ついに王都への帰還ですわ!
書籍、コミカライズを何卒よろしくお願い致します!
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