61「アンデッドです」①
刹那、耳障りな悲鳴が村中に響き渡る。
サムよりも体格のよい、いかにも冒険者崩れの賊は、血を撒き散らす肩口を抑えて地面に疼くまる。
そんな男の頭をサムは踏みつけた。
「んで、お前はどこの誰だよ?」
「てめぇえええええええええええ、俺のぉおおおおおおおお、腕ぇええええええええええええ!」
「うるさいんですけど」
程度の低い冒険者ほど、賊に身を落とすことが多い。
冒険者の多くが一攫千金を目指し、名を売ろうとしている。
サムのように異世界を堪能するための手段として冒険者になるような者はいない。
中には、ランクが低くても堅実に働く人もいて、そういう人間は人柄を気に入られて、商家と契約したり、貴族にスカウトされたりする。
一流の高ランク冒険者は、どこかおかしい場合が多い。戦うことが好き、強くなることがたまらない、モンスターを殺すことに快感を覚える、咎めることなく人を殺すため、など頭のネジが一本くらい外れている。
つまるところ、賊になるような冒険者は、普通に働いても続かずに、犯罪をするような人間だ。自分さえよければよく、楽をしたことした考えていないのだ。
そんな程度の低い人間を相手にするのは面倒だが、領地の今後のためにも、反乱など起こそうと考えさせないためにも、生贄になってもらおうとサムは考えた。
「それで、反乱を唆した理由は?」
「言うわけねえだろ!」
「なるほどね。苦しんで死にたいのなら、それでもいいよ」
賊の頭を踏みつけたまま、右腕を掲げる。
首を刎ねる前に、残った左腕、両足を順に刎ねていこうと思う。
「俺は、スカイ王国貴族の息子だ!」
「はぁ?」
「俺を殺せば問題になるぞ! てめぇも、スカイ王国の貴族なら俺の家を知っているだろう! 俺の家は――」
男は、家名を名乗ったが、サムには心当たりがなく首を傾げた。
「どこのお家? 国、間違えない?」
「……ふざけんな! てめぇ、いくらガキでも貴族の家名くらい把握していやがれ!」
「なーんで、野盗風情に説教されなきゃならないんだよ!」
「あ、あの」
サムの背後からジェーンの背中に隠れたオフェーリアが恐る恐る声をかけてきた。
「オフェーリア、近づかないでください」
「ですが、この方の言う家名に覚えがあったので、つい」
「そうだ! 俺は貴族の長男で――」
「あの、あなたの家はすでに断絶しています」
「……なに?」
「ぶはっ」
オフェーリアの口から出てきたのは、男が実家だと言う貴族が存在したことと、すでにお取りつぶしになっていることだった。
たまらずサムが噴き出す。
「ふざけるな! だったら、俺はなんのために! あいつらに復讐するために、俺は!」
「自分語りとかどうでもいいんでー」
血走った目をして、顔を無理やり上げた男を用無しだと判断した。
「オフェーリア、目を瞑ってください」
サムが右腕を一閃する。
「――スベテヲキリサクモノ」
賊の首が転がり、地面に血が広がっていく。
「あとはそこで見ている賊共を成敗しておしまいだな。――ん?」
首を斬り落とし、絶命させた賊の身体に違和感を覚えた。
この状況で生きていられる人間はいない。魔族だって無理だ。
サムが首を斬って生きていたのは、真なる魔王を名乗るヴァルザードだけだった。
「こいつ、なにか持っているな?」
「――サミュエル様、その男に触れてはいけません!」
ジェーンの叫びに腕を伸ばしていたサムが動きを止め、一歩引いた。
次の瞬間、男の肉体が泡になり、異臭を放って解けていく。
その光景は悍ましく、また匂いが不愉快すぎた。
「なんだってんだ、これ! グロいんですけど!」
衣服も肉も全て解けた男の跡には、一欠片の小石だ。
しかし、魔力を感じる。
「サミュエル様、お離れください! それは、ただの石ではありません。『黄泉がえりの石』と言い、アンデッドを作り出す邪法が封じ込められた魔道具です!」
離れろ、というジェーンに反して、サムは反射的に斬り裂こうとした。
だが、それよりも早く、地中から人型の肉の塊が飛び出してくる。
くるり、と身体を捻って肉塊を交わし、ジェーンとオフェーリアのそばに行き、彼女たちを背に庇う。
肉塊はサムたちを見向きもせず、隠れていた賊たちを襲い出す。
「ぎゃぁあああああああああああああああああ!」
「なんだこれっ! なんだよこれ!」
噛みつき、引っ掻き、確実に傷をつけていく。すると、血を流す賊が、身体を掻きむしり、肉体を腐らせて絶命した。だというのに、「あー、うー」と声を発し、他の賊を襲う。
悍ましい光景を、サムは呆然と眺めていた。
すべての賊がアンデッドに成り代わる。だが、それだけで事態は治らない。
地中から、次から次にアンデッドが現れたのだ。瞬く間に百のアンデッドが、また一瞬で二百になる。
「――スベテヲ」
すべて凪ぎ払おうとしたサムの腕を背後からジェーンが掴んだ。
「そちらの方角に、村があります。サミュエル様のお力では巻き込んでしまう可能性も」
「――くそっ!」
またしても、力を持て余してしまったことを舌打ちした。
「このままでは増えていくだけですが、所詮は魔道具です。限界があります。ある程度アンデッドを作り出したあと、勝手に壊れるでしょう」
「問題は、いつまでアンデッドを生み出し続けるか、だよね」
「よろしければ、私が消しとばしましょう。サミュエル様よりも、力の制御はできますので、お任せいただければすぐにでも」
心強い申し出をジェーンから受ける。
しかし、彼女の目は、サムを試しているような、探っているような目をしていた。
〜〜あとがき〜〜
久しぶりにサムが戦いますわ!
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