60「村につきました」②





「えっとあなたは?」

「私は、村長をしております、ランドンと申します」


 ランドンと名乗った男は、毛皮のマントを羽織った初老手前の男性だった。

 出立と、動作から、獣を狩ることに長けた人だと思う。

 狩猟と漁で生計を立てていると聞いていたが、村人の大半が狩猟に関しては「できる」雰囲気を持っていた。


「俺はサミュエル・シャイトです。こちらは、婚約者のオフェーリア・ジュラ。友人のジェーン・エイド。そして、赤竜の彼女は」

「シャイトさん家の元気な竜! メルシーちゃんなのだー!」


 本人は元気よく名乗ったつもりなのだろうが、轟っ、と風が吹き荒れた。


「ははぁああああああああああああああああ!」


 そのせいで村人がさらに平伏してしまう。

 それ以上頭を下げたら、地面に埋まるよ、と突っ込みたくなるほど深々とした平伏だった。

 その間に、メルシーが発光し、竜の姿から人の姿に変化する。


「しゅた!」


 地面に華麗に着地をすると、いそいそとサムの背中にのぼり、肩車となった。どうやら気に入っているらしい。

 隣でオフェーリアが「……威厳が」と額を抑えているが、十四の子供に元から威厳もなにもないだろうと、このまま話を進めていくことにした。


「それで、ランドンさんでしたって? とりあえず、顔を上げて、話をしましょう」

「ははぁぁあああああ! 領主様が、お越しになったということは、愚息が反乱を企んでいることをすでにご存知なのでしょう。愚かなことをした息子はもちろん、私も首を差し出す覚悟をしております。ですが、村人たちの命は、何卒何卒!」

「いや、反乱しないでくれるなら別にいいんだけど。あと、よく俺が領主だってわかったね?」

「もちろんでございます! 村には言い伝えがございまして、赤き竜にまたがりし者こそ村を導く者だろう、と。竜にまたがるお姿を遠目より拝見いたしました。まさに言い伝え通り! 貴方様こそ、領主の中の領主、伝説の領主様でございます!」


(伝説の領主ってなんだよぉ。あと言い伝えってなんだよぉ)


 どうやらランドンたちは、サムを領主として認識したのではなく、メルシーの姿を見て、言い伝えにある伝説の領主であると判断したそうだ。

 理由はさておき、反乱する気がなくなったのはいいことだ。


「息子さんが首謀者ってことでいいのかな?」

「はい! 愚息は村人全員で殴り飛ばし、縛って納屋に放り込んでいます」

「……わーお」

「話で解決できるよう村人たちで悩んでいたのですが、伝説の領主様に逆らうことは許されません! しばらくはまともに立てはしないでしょう」

「……過激ねー」

「しかし、息子を唆した賊どもは取り逃してしまいました。申し訳ございません」


 ランドンが謝罪と共に、再び頭を下げてしまう。


「なるほど、元凶がいるわけですね」


 オフェーリアは納得したように頷いた。

 サムが視線を向けると、彼女は口を開き、続ける。


「離れたこちらの村にサム様が領主として着任した情報が届くのが早すぎました。こちら側で通達するよりも早く、です。冒険者や商人経由で伝わることも想定していましたが、まるですでにサム様の着任を知っていたような展開でしたわ」


 どこからかサムの着任の情報が漏れていたということになる。

 もっとも、隠してはいなかったので、知るのは簡単だっただろう。


「サム様が領地を持つのを面白く思わない者もいるでしょう。単純に嫉妬して嫌がらせをしているだけかもしれません」

「うわぁ」

「残念ですが、そのようなつまらないことを呼吸するようにしてしまうのが、貴族なのです」

「貴族も大変だ」

「大変だぁ!」


 サムが肩をすくめると、メルシーも真似をした。


「さて、問題はその賊どもですが……」

「探さなくても向こうから来たよ」


 サムが指差すのは、村の入り口だった。

 民家の壁に隠れているが、気配も魔力もなにも消せていない。

 賊といっても大した脅威ではないと判断できた。


「おーい、隠れても無駄だからでておいで。今なら、苦しめないで殺してあげるから」


 サムが善意の通告をした。

 領民を唆し反乱を企んだとなれば、最悪の場合、賊だけではなく親類にまで被害が及ぶ。その親類がいないなら問題ないが、いる場合は、その者たちにとって晴天の霹靂になるだろう。

 だが、それでは後味が悪い。

 なので、首謀者をこの場で手打ちにして終わりにした方が、労力も、その後のことも簡単でいい。

 しかし、そんなサムの言葉が賊には不満だったようだ。


「ふざけんな! 女連れのガキが調子に乗りやがって! テメェをぶっ殺して、その女共を遊んでやるぜ!」

「――いい度胸だ!」


 暴言を吐いた賊のトップと思われる体格のよい男に、サムは獰猛な笑みを浮かべると、メルシーを肩から下ろして、消えた。


「――あ?」


 サムを見失っている賊の前に立つと、得物を握っている右腕を掴み、そのまま腕の付け根から引きちぎった。






 〜〜あとがき〜〜

 ですわ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る