40「女体化が広がっていきます」②





「なんと美しい……これが私か」


 クライド・アイル・スカイ国王陛下は、用意しておいた姿見を除き込み感嘆の声を漏らしていた。

 鏡の中には、十代後半の美少女がいる。


「自分で言うのもなんだが、胸はあまりないが絶世の美少女ではないか?」


 少々、自信過剰なクライドは、くるりとその場を回転して見せる。


「若返ったせいか、身体が軽くあるな! ……男の状態で若返りたかったというのは、少々わがままが過ぎるな」


 着ている服が王としてのそれなので違和感こそあるが、紛う方なく美少女だった。

 どことなく長女ステラに似ているのは、親子だからだろう。


「陛下、素敵ですわ。わたくしたちよりも若く、可愛らしくなってしまい、ちょっと嫉妬しますわ」

「そうね。でも、立ち居振る舞いがなってないわ。これからどこに出しても恥ずかしくないように教育してあげましょう」


 なぜか艶のある表情を浮かべた王妃たち。

 クライドはふたりの様子に気づかず、「よろしく頼む」と頼もしそうにしている。


「へ、陛下、そろそろ変わってください! 私たちも早く、女体化した姿を見たいのです!」

「おお、すまぬすまぬ。存分に見るとよい!」

「し、失礼します!」


 クライドの背後に並んで待っていた貴族たちが待ちきれんと、叫ぶ。

 つい女体化した姿に感嘆していたクライドが謝罪し、横にどくと、貴族たちがわらわらと鏡に殺到した。


「――う、美しい。これが私か?」

「娘の美しさが自慢だったが、私のほうが美しいのではないか?」

「妻の若い頃よりも断然私のほうが美しい!」

「あ、扉開いちゃった」

「私もだ。閉じそうもない」

「嗚呼、はじめまして本当の私!」


 興奮している貴族たちを見て、デライトとジョナサンは大きく嘆息する。


「地獄絵図だな」

「違いない。つーか、こいつら後で男に戻るつもりがあるのか?」


 額の汗を拭うのは、ブロンドの髪を伸ばした美女となったジョナサンだった。

 すらりとした線の細い女性だが、足が長く、背筋がぴんとしている。

 ヒールでも履けばかっこいい女性として憧れの的になるだろう。


「つーか、ジョナサンはリーゼにそっくりだな。てっきりウル似の女になると思っていたんだがな」

「ウルに似ずによかった。見なさい。ギュンターがひどくガッカリした顔をしている。もしウルに似ていたらなにをされていたのかと……考えるだけでゾッとする」

「……あの変態、絶好調だな!」


 呆れるデライトは、娘のフランによく似ていた。

 手入れをあまりしていない髪が、娘と同じさらりとした艶やかな髪となり、顎のあたりで綺麗に切り揃えられている。

 眼鏡をしたら、双子と言ってもわからないほどそっくりだった。


「ギュンターが産まれたとき、我が家は安泰だと思ったのだが……ままならないものだ」

「うぉ、イグナーツの旦那はやばいっすね」

「お労しい、公爵殿」


 憂を帯びるイグナーツ公爵は、女体化してドレスまで着込んでいる息子と瓜二つだ。

 惚れ惚れするほどの美人になったのだが、イグナーツ公爵から漂うどんよりとした雰囲気が、なんとも言えない。


「俺は、この姿で家に帰るのかよ? レイチェルが待ち構えているのが怖いんだが」

「デライトはいいだろう。私は、娘たちに加え、お客陣までいるのだ。娘たちも楽しみにしていたので、間違いなく見せ物になるだろう」

「……私は早く家に帰って寝室で現実逃避したい」


 デライト、ジョナサン、イグナーツ公爵は顔を見合わせると、「はぁぁぁぁぁぁぁ」と盛大なため息をつくのだった。





 ――女体化計画はまだまだ序の口である。






 〜〜あとがき〜〜

 パパンたちの女体化でした。

 ギュンターは止まりません。まだ、魔王や竜がいるもの!


 まだ本作がシリアスだった頃を掲載している書籍1巻2巻、コミカライズを何卒よろしくお願い致しますわ!

 コミカライズ4話も公開されたのでよろしくお願い致しますわ!




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