37「ドワーフさんと出会いました」④
喉がはち切れんばかりの大声を上げたガロンが、そのままバタンと後ろに倒れる。
「え? なになになに!?」
「なんですの!? なんですの!?」
サムとオフェーリアは悲鳴のようなガロンの叫びに、びっくりして抱き合った。
ふたりにジェーンが説明する。
「私が見ているものを一時的にガロンに見せました。おそらく、サム様の魔力を視認して、当てられたのでしょう」
「お前の魔力は魔族にとっても規格外だからな。ドワーフは魔力はあまりない。驚くの無理はないだろうし、叫びたくなるのもわかる」
「サミュエル様は、それほどまで魔力が多いのですか?」
魔法に関しての素質がないオフェーリアは、サムの魔力の大きさに驚いているものの、サムはそれどころではなかった。
(自分の見ている魔力を、他人に共有させるって……どうすればそんなことできるんだよ!? ジェーンさんって、本当に準魔王の枠に収まっているの!? 規格外じゃない!?)
ダグラスからジェーンの力が飛び抜けていることは聞いていたが、ひとつひとつの技術も驚愕でしかない。
自分とダグラスの戦いを易々と止めたことといい、実は魔王級なのではないかと思う。
サムが目を見開いている間に、ジェーンはガロンの傍らに腰を落とし、頬を軽く叩く。
「起きなさい、ガロン。仮にも、ドワーフ族の族長だった男が情けないですね」
「この人、ドワーフの族長なの!?」
「元、がつきますが、はい。今は世代交代しました。ガロンは、武者修行として国から出て行った若いドワーフたちに混ざってこっそり自分も次なる酒を求めて出て行ってしまったのですが……まさかスカイ王国の、それもサミュエル様の領地にいたとは。不思議なこともあるようですね」
「変態といい、ドワーフといい、竜といい、この国は呪われているんじゃないか? いろいろ集まりすぎだろう!」
不思議とひと言で片付けるジェーンに対し、ゾーイが叫んだ。
確かに、ゾーイの言うように、スカイ王国にはいろいろ集まり過ぎている。
なにか引き寄せるものでもあるのではないか、と不安になる。
「あ、あの」
今までことの成り行きを見守っていたガインが恐る恐る手を上げる。
「まさかとは思いますが、皆様も魔族様なのですか?」
震えながら、質問してくるガインに、隠していても仕方がないのでサムたちは答えた。
「えっと、魔王です」
「わたくしは人間ですわ」
「魔族だ。吸血鬼であり、準魔王だ」
「私は魔王ダグラス様の秘書である魔族です。種族は混血ですので、分かりやすく言うと魔人でしょう」
町長の目が、これでもかと見開いた。
驚くのも無理はない。
新しい領主をはじめ、ひとりを除いてみんな魔族だったのだ。
しかも、魔王や準魔王という肩書きを持っているのだから。
ガインがどこまで魔王と準魔王を理解したのかは知らないが、とりあえず彼はそのまま意識を失い糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
近くにいたジェーンが抱きかかえて、そっと床に下ろす。
そんなことをしていると、倒れていたガロンが起き上がった。
「……俺としたことがビビって気絶しちまった。情けない姿を見せて申し訳ねぇ」
少しフラつきながら、ガロンが身体を起こして軽く頭を下げた。
そして、サムを睨みつける。
「坊主……いや、魔王サミュエル・シャイトだったな。てめぇ、が魔王だからって俺はひれふさねえ。俺が平伏すのは、主人と認めた相手だけだ」
「別にひれ伏せなんて言った記憶はないよ」
「はっ、んで、領主様だったな。俺たちの蒸留所に手を出すつもりがねえと言ったが?」
「もちろんだ。ここのウイスキーは、亡くなった愛した人が好きだったんだ。蒸留所を潰すなんてことは絶対にしない」
「ほう」
「いろいろ誤解が重なったけど、俺の求めるのはひとつだけだ」
「聞かせてみやがれ」
サムの規格外な魔力を見て、魔王として認識したあとでもガロンの態度は変わらなかった。
しかし、若干身体が震えている。
それでも、蒸留所のために一歩も引く気のないガロンをサムは好ましく思う。
「――家族として支え合おう」
「なんだと?」
「俺たちは、生まれも育ちも種族も違う。だけど、ここに生きている。なら、つまんないことはごちゃごちゃいいんだよ。俺は領主になった。だけど、みんなのために何ができるかわからない。だから、婚約者のオフェーリアが支えてくれる。安心していい。彼女は優秀な人だ」
「はっ、たいそうなことを言っても女任せか!」
「もちろん、俺だってできることはするさ。約束しよう。前の領主だかなんだか知らないが、今まで屑とは違う。俺の領民なら、毎日が笑顔で過ごせるようにする。俺は戦うことしかできないから、全力でみんなを守ろう」
サムはガロンに向かって手を差し伸べた。
「もし、みんなを害しようとする誰かがいれば、俺がすべて斬り捨ててやる。だから、まず、俺のことを、俺たちのことを信じてくれ」
「わたくしも尽力致します。どうか、信じてください」
サムが力強く言葉を吐き出し、オフェーリアが誠意の篭った礼をした。
「いいだろう!」
ガロンがサムの手を取り、力強く握りしめる。
「簡単に信じることは難しいが、ジェーン様が一緒なら最悪のことにはならねえだろうさ。本当に信用されたいのなら、今後の行動で示せ」
「もちろんだ」
「よし、じゃあ、お近づきの印に、いっぱいやろうぜ!」
男臭い笑みを浮かべてガロンが、懐からスキットルを取り出した。
「あ、ごめん。お酒は未成年なので飲めません」
「はぁあああああああああああああああああああああ!? この流れでそりゃねえだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
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