20「酷い誤解を受けました」②
サムが叫んでいる間にも、町民たちの話が進んでいる。
ついには、町長自らが家族そろってサムに身を差し出すことを決意してしまう。
さらに、二十歳過ぎの男女も覚悟を決めてしまったようだ。
「わしの娘と婿も領主殿に捧げよう。これで、若い子から老人までそろった。領主様が満足してくださればいいのだが」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、俺はどれだけ鬼畜だよ!」
ちょうど、広場の上空にたどり着き静止したサムは、町長の決意と不安に満ちた言葉に、たまらずツッコミを入れる。
背後で、腹を抱えて我っているカルはあとでぶっ飛ばす。
ゾーイも口を抑えているし、ジェーンも表情を変えていないように見えるが、口元がひくひくしている。
オフェーリアだけが真面目な顔をして、「ここから領民たちの好感度を上げるなんて……腕が鳴りますわ」と、サムから町民たちに興味を移していた。
「ど、どこから、声が」
「上だ! 空に、人が!」
サムに気づいた誰かが、空を指差す。
領民たちが顔を上げ、サムたちに視線が集まった。
「あ、あなたは一体どなたでしょうか!?」
恐る恐る尋ねてくる町長に、サムは引き攣った顔をしたまま挨拶をした。
「こんにちは。散々な噂を立てられているサミュエル・シャイトです。領地を拝領し、領主となったため突然ではありますがご挨拶に参りました」
「――りょ、領主様ですか!?」
「はい」
にっこり、と笑みを浮かべて肯定した。
次の瞬間、「ははぁああああああああああ!」と叫んだ町長が、その場に両膝をついて平伏してしまった。
連鎖するように、次々と領民たちが平伏していく。
ざっと三百人の人間が、平伏している光景はなんとうか、悪いことをした気分になる。
「いや、顔を上げてよ」
「はははぁあああああああああああああああ!」
「いや、だから」
「ははああああああああああああああああああ!」
「会話ができねー!」
顔を上げないどころか、言葉さえ発しない町長たちとどうコミュニケーションを取ろうかサムが悩む。
「あの、サミュエル様」
腕の中からオフェーリアが声をかけてきた。
「おそらくですが、サミュエル様に関しての悪い噂を口にしていたところを目撃されてしまい、罰を受けるのではないかと怯えているのです」
「やりましたね、サムさん! 掴みは完璧っすよ! これで、あとは恐怖で支配するだけっすね!」
「カルは黙ってて! 俺は罰なんてしないけど」
「貴族を悪く言うことは民に珍しくありません。ですが、聞かれないところでこっそりしているのが普通です。貴族に、それも領主の前で悪態をつけば、普通は罰せられます」
貴族って面倒臭い、とつくづく思う。
とんでもない風評被害を受けていることに思うことは山のようにあるが、そんなこといちいち気にしていたらスカイ王国王都では暮らしていられないのだ。
(ひどい風評被害ではあるけど、あれくらいのことを言われただけで罰するとか、王都だったら全員罰しなきゃならないじゃん!)
正直なことを言うと、王都から遠く離れた最南端の地で、自分の悪評が流れていることにびっくりするが、怒って罰を与えるほどではない。
どちらかと言えば、どうせ悪評の元凶であろうギュンターのことを折檻したい気分だった。
「サミュエル様。とりあえず、下に降りましょう。このままでは領民を威圧しています」
ジェーンの助言に従って、サムたちは町長が平伏している目の前に降り立った。
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