11「もうすぐ誕生日でした」





 結局のところ、神聖ディザイア国はすぐに動かないはずだが、それは女神次第なので警戒はしておく必要がある。

 カリアンは女神の復活は近いと言伝をしていたので、なにかしらの手がかりは得ているのかもしれない。

 ただし、千年以上を生きる友也が知らないのであれば、女神がいない可能性も高いのだが、いる、いないを考えたらキリがないのだ。


 サムとしては、家族を守るために力を付けることを拒む必要はなく、ダークエルフにもぜひ会いたいという気持ちがある以上、闇を極めることは挑戦してみたい。


(やることがたくさんあるって言うか、面倒ごとが多いな。俺は奥さんたちと幸せに暮らしながら、ときどき異世界を見てあるくことができればそれでいいんだけど)


 子供も生まれてくるし、名前もまだ決まっていないし、領地にも足を運ばなければならないし、現時点で優先すべきことはたくさんある。

 神聖ディザイア国とか女神復活とか、他所でやって欲しいと思うのが本音だった。


「さて、話も終わったようだし、僕は失礼するよ。今の話を陛下にお伝えし、スカイ王国でもできる対策をしようと思う。それに、性力、聖術といういやらしい力が相手ならば、陛下にご相談しビンビン力で対抗するべきだと思うからね」

「だから! 性力じゃなくて聖力だって言ってるだろ! 本当に話をきいてたんですか!? ちゃんと伝えてくださいよ!?」


 ギュンターは席を立ち上がり、ジョナサンとグレイスに一礼し、サムにウインクする。

 そのまま食堂から出て行こうとして、足を止めた。


「そういえば、聞きたいことがまだあったよ、変態」

「なんですか、変態?」

「そのダークエルフとかいう種族と会うのはいつを予定しているのだね?」

「……サム次第ですかね? ここからいきなり転移、とはできないんですよ」

「ならば――サムの誕生日を祝ってからしてもらいたい」


 サムは、はて、と首を傾げてから、しばらくして「あ」と声を出した。

 あと一週間ほどで十五歳の誕生日だ。

 つまり、成人だ。


「以前からリーゼたちと祝いたいと話をしていたんだがね、本人がいなければ意味がない。それに、僕たちにとってもサムのはじめての誕生日だ。盛大に祝ってあげたいのだよ」

「おい、俺は別に」

「愛しい君よ。僕たちは貴族だからね、誕生日を、それも愛しいサムの初めての誕生日を自分たちのためにも思いっきり祝いたいのさ。なに、心配はいらないよ。僕はその気になれば、国民全員から誕生日プレゼントを持って馳せ参じさせることくらい」

「やーめーてー!」


 税金みたいに誕生日プレゼントを徴収されたらたまったものではない。

 ただ、誕生日を祝ってもらえるのは純粋に嬉しい。


 日本にいた頃、十代の頃はさておき、仕事を始めてからは誕生日など関係なく働いた。ときどき上司や同僚が奢ってくれたくらいだ。

 こちらの世界で転生してからは、幼少期はダフネとデリックと男爵家の使用人たちが祝ってくれていた。

 ウルと出会ってからは、旅先でウルが。ただし、ウルの誕生日プレゼントは過激だった。「新しい攻撃魔法を授けてやろう!」と実際に味わうことで強制的に習得させられた。しかも、そのうちひとつは危険すぎて使えないし、もうひとつは魔王になった今でも使いこなせない。


「懐かしいですね。男爵家にいた頃は、クッキーやお茶でしかお祝いができませんでしたが、一緒に歌を歌ったり、踊ったりしましたね」

「ああ、懐かしいよ」

「男爵家で働いていた使用人仲間とは今も交流があります。ぼっちゃまのお誕生日にはお呼びしましょう」

「会えるのは嬉しいけど、仕事があるんじゃ」

「王都観光をしたいと言っていたのでいい機会です」


 そう言われてしまうと、反対もできない。


「サム」

「えっと、リーゼ?」

「私たちがサムと出会ってから初めての誕生日を、思い出に残るものにしましょうね」

「――はい!」


 リーゼが微笑むと、アリシア、ステラ、花蓮、水樹、フラン、オフェーリア、そしてジョナサンとグレイス、ギュンター、友也、ダフネも笑顔を浮かべてくれた。


 ――思い出に残る誕生日になるといいな。


「みんな、ありがとう!」


 家族の心遣いにサムは、泣きそうになりながらお礼を言うのだった。









 ――この時、サムはまさか誕生日があんなことになるとは夢にも思わなかった。








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