12「このふたりが揃うとロクなことしません」




「あい、わかった。神聖ディザイア国の情報を共有してくれたことに感謝する。魔王遠藤友也殿にもお礼を言っておいて欲しい」

「かしこまりました」


 ウォーカー伯爵家で話を終えたギュンターは、その足で王宮に向かい、国王クライドに魔王遠藤友也から伝えられた情報を共有していた。

 ソファーに向かい合う形で座る二人。

 魔族はもちろん、魔王に至ったサムたちでさえ脅威を覚える聖力の存在に、クライドも顔を硬張らせている。

 ふう、と息を吐き出し、眉間を揉むと、彼は静かに言葉を続けた。


「まさか魔王殿たちに毒となる力が存在するとは、恐ろしいものだ。かつての私ならば、飛びついていただろうが、今は違う。娘婿、いや、我が子同然であるサムや、我が国を守護してくださる女神エヴァンジェリン様に害を与える力は良しとせぬよ」

「まったくです」

「大陸東部と西部で大きく離れていることに感謝すべきか……いや、どのような方法でこちらにやってくるのかわからぬ。それに、サムのことだ。向こうで罪のない魔族たちになにかあれば」

「助けに行くでしょう。普段は他人に素っ気ない態度をとるサムですが、内面は危ういほど優しい」

「しかし、その優しさがサムであり、私たちは救われてきた」

「……はい。それゆえに、僕たちが関わることを快く思わないでしょうが、人間である僕たちが最悪の場合は戦うことも想定しておくべきかもしれません」

「そうであるな」


 クライドは深々と頷いた。

 サムがスカイ王国王都に現れて、まだ半年ほどだ。

 その間に、何度彼に救われたのかわからない。

 人生の全てを費やしてでも封じ込めようとしていた魔王レプシーを倒し、他の魔王と友好的な関係を築くきっかけになってくれたのだ。

 この恩は返そうとしても、簡単に返せるものではない。


「デライトも劇的に強くなった。だが、戦力面で並ぶものはいない。木蓮も回復魔法は素晴らしいが戦うことを得意とせず、なによりも本人が誰かを傷つけることを嫌うのだ。無理強いはできぬ」

「おじさまを――ウォーカー伯爵ならばデライト様同等の魔法使いになると思いますが」

「若き頃は、最も王国最強に近い男と言われていたジョナサンならば、と思うが……胃がな」

「ですね」


 若かりしジョナサンは、強さを貪欲に求める魔法使いであった。

 貴族のジョナサン・ウォーカー、平民のデライト・シナトラのどちらからが王国最強になるかで競い合っていた。

 ジョナサンは何度もデライトを地につけた数少ない男であったが、血の滲むような努力の果てにデライトによって倒され、最強の座はデライトのものとなる。

 その後、若かりし頃の面影はどこに行ったのか、ジョナサンは結婚して子煩悩パパになってしまった。

 ウルリーケが生まれてからは、トラブルを起こしまくる娘と、セットでついてくる変態のせいで胃痛を覚えるようになり、すっかり精神と胃腸の弱い中年男性になってしまった。

 実力は衰えていないだろうが、今のウォーカー伯爵は戦力ではなく、国を動かすのに必要な人材であった。


「変態魔王もなにやら考えがあるようで、サムに力をつけさせようとしていますが、だからといって僕たちがただ見ているわけではすまされません」

「うむ」

「そこで陛下に、ご相談があって参りました」


 わかっている、とクライドはギュンターの目を見て、頷いた。


「性術、性力という、いやらしく危険な力を使う神聖ディザイア国を、私としても放置はできない。魔族を敵視している以上、いつ魔王様と交友関係を築いているスカイ王国に牙を剥くかわからぬ」

「おっしゃる通りです。僕のサムがいやらしい目に遭うことなど我慢できません! そこで!」

「言わずともわかっておる! 私の、いいや、スカイ王家のビンビン力で神聖ディザイア国の性力に抵抗できないかと考えておるのだろう」

「……さすが陛下です」

「よせ、あまり煽てるでない。そなたは我が弟子でもある。考えていることはわかるものよ」


 ジョナサンは立ち上がると、「ついてきなさい」と言い、執務室から出る。

 ギュンターは首を傾げるも、なにを言わずに続いた。


「我がスカイ王国には、王家の力、王家のテクと受け継がれているものがある」

「存じています」

「そして、もうひとつ……初代国王様をお支えになった聖女様から秘密裏に伝えられた、第三の王家の力があるのだ」

「――っ、そのような力が!?」

「その名も――王家のビンビン」


 クライドの言葉にギュンターが総毛立った。


「王家のビンビンを取得すると、王家のテクと相待って壮絶な夜の力を得ることができる。同時に、王家の力を活性化することも」

「陛下はその力で性力と戦おうと」

「可能性があるのならば、賭けなければならない。ギュンター、その秘術をそなたに授けよう」

「――っ、よいのですか? 僕は、王族では」

「なにを言う。王族ではないが、イグナーツ公爵家のそなたにはスカイ王家の血が受け継がれている。可能だ」


 それに、とクライドは足を止めて、ギュンターを振り返る。


「そなたはクリーに夜の生活で負けっぱなしであると聞く」

「……お恥ずかしながら、僕はすっかり調教されてしまいました」

「だが、王家のビンビンと王家のテクを習得すれば、攻守は逆転するだろう!」

「――そんなことが、可能なのですか!?」

「うむ」


 クライドは再び歩み出した。


「王のみが許された王宮の最奥部……そこに秘術を得るために魔法陣が刻まれた部屋がある。無論、簡単に手に入るものではない。試練があるが、厳しいぞ」

「――サムのためならば、そしてママに勝つために!」

「うむ! よきビンビンの意思である! ならば、そなたには試練を受けてもらう! ――気高いビンビンの戦士となるのだ!」


 サムも誰もツッコミ役がいないため、神聖ディザイア国の聖力を性力と勘違いしたクライドは、ギュンターに王家の第三の力を授けることになった。




 この力を得たギュンターが、想像を絶する活躍をするのだが――それはまたの機会に。





 〜〜あとがき〜〜

 閑話ではなく、本編なんです。

 真顔で書きました。

 楽しんでくださいますと幸いです!


 まだ陛下がシリアス時代の書籍2巻が好評発売中です!

 ぜひお手に取ってください!




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