3「ダフネの心配です」
「ふぁ。お腹減った」
着の身着のままベッドで眠ってしまったサムは、身体の痛みを覚えながら起き上がる。
服を脱いで、ラフなシャツとスラックス、サンダルを身に付けると、みんながいるであろう食堂に向かった。
「――ぼっちゃま!」
「あ、ダフネ? きていたんだ?」
途中で、メイド服のダフネと顔を合わせた。
彼女は小走りで寄ってくると、サムに抱きついた。
「わっ、なになに?」
「ご無事でよかったです! 変態魔王から神聖ディザイア国と相対したとお聞きしましたので、不安だったのです! 今朝一番にこちらに伺ったのですが、ぼっちゃまは眠っていると聞きましたので起こしても悪いと思い……ああ、この目でご無事を確認できてよかったです」
「心配かけてごめんね。あれ? ダフネは神聖ディザイア国を知っているの?」
「もちろんです。エルフの里は大陸西側にありますからね」
「あ、そうだった」
幼い頃から身近な姉であるダフネだが、彼女は人間ではなくエルフだ。
大陸西側に住んでいたこともあり、神聖ディザイア国を知っているようだ。
「もちろんです! 何人の同胞が殺されたか! エルフは特別強い種族ではありません。魔法には長けていますし、人間や魔族の平均以上には戦えますが、族長や長く生きる長老たち以外では他の種族に劣るでしょう」
「そうなの?」
「はい。時折生まれてくる規格外なエルフもいますし、森で戦わせればそれなりに強いのですが、個々の平均的な力はそこそこ強い魔族といった感じです」
そこそこ強い魔族というだけで人間にとっては大きすぎる驚異の気がするが、大陸西側では突出した力はないようだ。
準魔王のダフネの実力は相当のものらしいが、彼女は特別なエルフゆえだった。
「エルフは人間を好いていますし、愛でることもあります。女性が多いため、人間と結婚するエルフも少なくありません。しかし、あの国だけは駄目です。魔族である時点で拒絶は必須ですし、問答無用で攻撃されます。武器などで攻撃されても、人間は怖くありませんが、聖術を使われると……恐ろしいですね」
「……聖術っていうか聖力はゾッとしたね」
「魔族としての格が高ければ高いほど聖力を嫌うようです」
「へぇ」
「私たちエルフにも聖術は恐ろしいです。エルフに伝わる性術では手も足も出なかったようです」
「――ん?」
さらっとおかしな台詞が聞こえてきたが、ダフネ自身は不安で泣きそうな顔をしているのできっと気のせいだろう。
「心優しいぼっちゃまにこのようなことを言うのは心苦しいのですが――」
「うん」
「神聖ディザイア国の人間に会ったなら、問答無用で斬り捨ててください」
いつも優しいダフネの口から出たとは思えない言葉に、サムは驚いた。
彼女の目には神聖ディザイア国の人間に対する、恨みや敵意はない。ただ純粋にサムを案じてくれているのがわかった。
今のサムは、彼女の言葉にただ頷くことしかできなかった。
〜〜あとがき〜〜
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