14「ダグラスと喧嘩です」③




 音を立てて地面に巨体を激突させたダグラスを見送り、サムは超速再生を使ってみるも無残にぐちゃぐちゃになってしまった右手を再生した。

 元に戻った腕に違和感こそないが、巻き戻したように身体が再生していく光景はなかなか慣れるものではない。

 そうこうしていると、ダグラスがゆっくり起き上がる。


 まず砕かれた拳と、あらぬ方向に曲がった腕を眺め、砕かれた頬骨と歯を無事な左手でそっと触れるように確認すると、今までのダグラスとは違う獣のような笑みを浮かべた。


「……なるほど。お前さんを過小評価したつもりはなかったんだが、予想していたよりもずっと強かった。俺も長いこと魔王をやっていてな。それなりに見る目はあると思ったんだが、どうやら節穴だったようだ」


 ゆっくり傷を再生させながら、巨体を真っ直ぐサムに向け突き進んでくる。


(――っ、威圧感がはんぱない! ていうか、でかくなってないか?)


 押し潰されそうな圧迫感の中で、サムは違和感に気づいた。

 二メートルを超える巨体のダグラスが、もっと大きくなっているのだ。

 パッと見た感じ、三メートル近い。

 腕や足も一回りほど太くなっている。


「サミュエル・シャイト。楽しい喧嘩にしようじゃないか!」


 サムが返事をするよりも早く、ダグラスの姿が掻き消えた。


「速っ!?」


 目を見開くサムの眼前に、腕を振りかぶったダグラスがいた。

 刹那、彼の拳がサムの顔面に迫る。

 しかし、反射的にダグラスの腕を蹴り上げて逸すことに成功した。


(――足、折れた!)


 だが、ダグラスの攻撃は終わらない。

 そのまま一回転し、今度は裏拳を放つ。

 二度目の迎撃を難しいと判断したサムが、避けようとするも、想像以上に拳が速い。

 下手な体制になって受け止めるはめになるよりは、腕一本犠牲にすることを覚悟して彼の一撃を対処しようと決断する。


「ほう、受けるか? だが、俺の拳は――かなり痛いぞ!」


 嬉しそうに笑ったダグラスの一撃は、告げられた以上だった。

 サムの腕が、拳を受け止めようとして枯れ木のようにへし折れた。全力で防御していたにもかかわらず、打撃の一割ほどしか軽減できなかった。

 ダグラスの拳はそのままサムの二の腕を折り、肩とあばらを粉砕した。


「――おえっ」


 内臓がやられたのか、口から血が漏れる。

 だが、このままやられっぱなしでは面白くない。

 喧嘩は勝たなければ意味がないのだ。


 意識が飛びそうなほどの打撃を受けたサムだが、渾身の力を振り絞って左腕を伸ばし、ダグラスの角を掴んだ。

 何も考えてはいなかった。

 後先考えず、とりあえずやり返したいだけだった。


「――ひひっ」


 ちゃんと笑えないのに無理やり笑い、サムはそのままダグラスの額に思い切り頭突きをかました。

 次の瞬間、サムとダグラスの額から鮮血が吹き出した。






〜〜超お知らせです!〜〜

 8/5(金)電撃コミックレグルスにて、コミカライズ版「いずれ最強に至る転生魔法使い」の連載が開始となります!

 お話はコミックウォーカー様でご覧できますのでお楽しみに!

 コミカライズを担当してくださるのは『戯屋べんべ』先生です!

 コミカライズ、そして発売中の書籍1巻を何卒よろしくお願い致します!

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