12「ダグラスと喧嘩です」①




 中庭に移動したサムとダグラスは、お互いに上半身裸になって向かい合っていた。

 ダグラスの持ってきた大量のお土産に狂喜乱舞していたリーゼたちも、ふたりが喧嘩すると気づき、正気に戻ったのだが、魔剣を大事そうに手に持っている。

 使用人たちはそれぞれの持ち場に戻り、中庭にいるのはジョナサン、グレイス、リーゼ、アリシア、ステラ、フラン、水樹、花蓮、そしてジュラ親子だ。

 もうひとりの魔王は深く眠ってしまったようで食堂に置いてきた。

 リーゼたちよりも一歩前に立つのは準魔王であり、ダグラスの娘のジェーンだ。彼女が周囲に喧嘩の余波で被害が出ないよう障壁を張り巡らせてくれている。


「ほう、背丈は小さいが身体は引き締まっているな」

「これから伸びるんだよ! 三メートルくらいになって見下ろしてやる!」

「それは伸びすぎだろ。いや、すまんな。男の子に小さいは禁句だった」


 まだ成長期なので少しずつ身長は伸びているものの、五十センチ以上も背丈に差があるダグラスを見ると、うらやましくなるし、ちょっと悔しい。

 サムにとって、身長だけがコンプレックスなのだ。


「喧嘩にルールなんて必要ないんだが、まあ、最低限決めておこう」

「そうだね。喧嘩だから、斬らないであげるよ」


 サムの挑発的な台詞にダグラスが笑みを深くする。


「遠慮するな。俺は魔王の中では一番弱いが、単純な肉体の硬さなら誰よりも上だぜ。斬り裂きたかったら、いつでも斬り裂いていいんだぜ。もっとも、斬り裂けるなら、な」

「かちーん! そこまで言われたら、意地でも斬らないから!」


 サムとしては、問答無用で襲いかかってきたロボはさておき、客人としてちゃんとやってきたダグラスを斬るなど後味の悪いことをするつもりはない。

 また、魔王になりたてのサムではあるが、玉兎やロボと戦った時とは違い、今は万全な状態だ。

 当初は振り回され気味だった力も、ここ数日で肉体によく馴染んでいる。

 ならば、この身体ひとつで魔王にどこまで通じるのか試してみたいと思う。


「ならば喧嘩らしく、肉体で語り合おうじゃないか!」

「ぶっ飛ばしてやるよ!」


 わくわくした様子を隠すことなく魔力を高めるダグラスに負けじと、サムも魔力を高めた。

 ただ、雑に魔力を高めればいいわけではない。

 肉体に纏うように、体内に流れるように。


「笑えるほど魔力がでかいじゃないか!」

「あんたこそ、洗練されたいい魔力だ」

「褒めてもらえて嬉しいが、これだけの魔力の差があると嫌味にしか聞こえんぞ! だが、魔力は大きければいいわけじゃない。問題は、使い方だ!」

「そんなことよく知っているよ」


 サムは身体が疼くのを止められない。

 ダグラスはどのような力を見せてくれるのだろうか。

 そして、自分の力はどこまで通用するのだろうか。

 とても楽しい時間になりそうだ。


「いくぜ」

「いつでも」


 ダグラスの鍛えられた肉体が隆起した。

 そして、サムとダグラスは示し合わせたように、同時に地面を蹴った。

 刹那、ふたりの拳と拳が激突し、打撃の衝撃が暴風となって荒れ狂った。




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