6「オフェーリアと出会いました」③
「私がこんなことを言うのもあれだが、領地を預けた時点でその蒸留所はそなたのものだから、ウルの名をつけるなり、ギュンターの名をつけるなり、すきにするとよいのではないか?」
「陛下ったら、余計なことをおっしゃらないでください!」
あっぶねー、とサムは内心冷や汗だった。スカイ王国に来てからイベントだらけだった自分についにご褒美がやってきたと思ったら、とんでもない罠であった。
「まあ、いいですわ。次の手もありますから」
「不穏!」
「そういえば、大事なことを伝え忘れていますわ」
「……すっごく嫌な予感!」
サムは聞きたくないと耳を塞ぐがクライドによって腕を掴まれてしまう。
「ここからが重要なのだ! むしろ、今までのことは前座である!」
「サミュエル様の妻になるのは、わたくしだけではありません。母イーディス・ジュラと準魔王様カル・イーラ様も決定事項ですので、よろしくお願い致しますわ」
「はぁああああああああああああああああああああああああ!? って、なにどういうこと!? とりあえず叫んじゃったけど、ジュラ公爵も!? つーか、なんでカルまで加わってんだよぉ!」
「高度な政治的交渉の結果でした」
「意味わかんない!」
(カルは置いておいて、ジュラ公爵も!? いや、そんなこと言っていたけどさ、娘が結婚相手として送り込まれたと思ったら、母親までついてきたとか――母娘ど……)
サムは動揺を隠せない。
ジュラ公爵もクライドも、自分をどうしたいのだろうか。
そもそも母娘そろって妻になるとか、倫理的に大丈夫なのか。
自分はジュラ公爵を、義母と呼ぶのか、妻と呼ぶのか。
サムの脳裏にぐるぐる疑問が渦巻く。
「サムよ、親娘丼は誰もが一度は憧れるものだ。召し上がっておきなさい」
「いやいやいやいやいや、召し上がっちゃ駄目でしょう! 倫理的にどうなの!?」
「なにを言う? リーゼとアリシアの姉妹丼をしていながら、なぜオフェーリアとイーディスの母娘丼は駄目なのだ?」
「……わたくしは別に母娘丼をされるつもりはありませんが」
サムは言葉に詰まった。
確かに、リーゼとアリシアを妻にしている時点で、倫理もなにもないような気がしてきた。
しかし、姉妹と母娘では、いろいろ悩ましく思うのは自分だけだろうか、とサムは考える。
「そなたは魔王なのだ。人間の世間的を気にしてもしかたがあるまい――ということにしておこうではないか。オフェーリアは領地運営ができ、イーディスは再婚ができ、サムは母娘丼と領地を得て、私は抱えていた問題を一部そなたに丸投げできてみんな幸せである!」
「丸投げとか言ったぁあああああああああああああああああああああ!」
「うむ! よきビンビンである!」
「おい、待て、ビンビンで片付けようとするな! あ、ちょっとなにひとりで片付いたみたいな顔をしているんですか! そろそろ本気で怒るぞぉ!」
予期せぬ展開に驚いてばかりだったが、サムもそろそろ怒り出しそうだ。
しかし、サムは、はっ、とすると、震える声で尋ねた。
「も、もしかして、ジュラ公爵やカルのことってリーゼたちも」
「はい。わたくしとカル様は面談済みです。母は今頃面談中かと」
「リーゼぇえええええええええええええええええええええ! 一言言ってよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「あまりリーゼロッテ様をお責めにならずに」
「責めるつもりはありませんけど!」
「母はまだ子供を産めますし、産むつもりですし、年上好きのサミュエル様には丁度いいでしょう?」
「誤解です!」
妻たちは年上だが、別に年上だから好きになったわけではないし、結婚したわけではない。
そこを誤解されるのは不服だ。
「世の中には、多くのリスクを抱えてでも人妻と密会するような殿方がいるようですが、母は未亡人です。お好きになさってください」
「娘的にいいの!?」
「わたくしが領地運営できると思えば、些細な問題ですわ!」
「やっぱりこの子もおかしいね!」
どれだけ、領地運営したいんだよ、とサムは大きくため息をついた。
すでにリーゼたちに話が言っているのなら、ここで足掻いても無駄だろう。
オフェーリア、イーディス、カルが嫌だと言う意味ではないので、これ以上抵抗しても失礼に当たると考える。
(――あとは、リーゼたちとの話し合いでなんとか……できないよなぁ!)
サムとしては慎ましく暮らしていたのだが、どうやら世界は自分にイベントを与えたいらしい。
がっくり肩を落としたサムは、「お家帰ります」とクライドに告げ、お辞儀をすると、執務室から出て行こうとする。
そんなサムの背中に、
「あ、そうですわ。ウォーカー伯爵家では面談を終えた母がお待ちしているはずですから、よろしくお願い致します」
まだイベントは終わっていないとオフェーリアから告げられ、サムはそのまま倒れた。
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