フォロワー様40000人記念SS③




 サムは頭痛を覚え、吐き気まで催してきた。


 自分が変態扱いされるのは、百歩譲ってよしとしよう。

 クライドがスカイ王国をビンビン王国にする可能性も、あるかもしれない。

 もしかしたら変態が蔓延る世界もあるだろう。




 ――しかし、ギュンターとクリーのイグナーツ夫婦が、自分たちよりもまともな扱いを受ける世界は認められない。




「よし! 決めた! 今日の出来事はなかったことにしよう!」


 そもそも彼がひ孫かどうかも怪しい。

 とりあえず、このままお家に帰って眠ろう。

 きっと明日には素晴らしい日々が待っているはずだ。


「サム……現実逃避しても駄目ですよ」

「……やーめーてー!」

「じゃあ、しばらく現実逃避していてください。では、その間に、僕とお話しましょう。時に、ウルム・シャイト・ウォーカー君、一番の疑問なんですけど、君程度の実力の持ち主が、例え未来からやってきたとしてもサムを倒せると思っているんですか?」


 友也の問いかけに「――なに?」とウルムは、眉間にシワを作った。


「なにを言っている、変態魔王! 僕は、すでにサミュエル・シャイトを未来で殺したんだぞ!」

「俺、ひ孫に殺されてるの!?」

「なによりも、この程度の力しかない魔王に俺が――」


 サムの悲鳴を他所に、ウルムは言葉を止めた。


「なぜ、俺はサミュエル・シャイトなどという変態だけがとりえの魔王に、こうも無様に押さえ込まれているんだ? なぜ、力づくで解けない? 俺は、全力だというのに!」

「……そんなことだと思いましたよ」

「なにが言いたい?」

「あのですね、サムは変態でもあるでしょうが、戦闘に、それも特に攻撃に特化した魔王ですよ? あのロボや、レプシーにですら勝ったんですから。未来がどのような未来か知りませんが、君程度に負けるようなサムはサムじゃない」

「なにを言っている! ロボ、レプシー? 誰の話をしているんだ!」

「おっと、これは確定ですね」


 うんうん、と頷いていた友也は、笑顔を消して魔力を一気に放出した。


「か、は」


 刹那、少年の呼吸が止まる。

 まるで陸に打ち上げられた魚のように口をぱくぱくして酸素を求めている。


「ということです」


 もがく少年の姿を確信した友也が、再び笑顔を貼り付けて魔力を抑えると、少年はそのまま地面に倒れた。

 さすがにサムも彼から離れる。


「なんだ、それは。化物か?」

「この程度の魔力を浴びただけで動けないのなら、サムには遠く及びません。サムの魔力は、僕以上ですよ」

「――っ」


 信じられないものを見るような視線を、自称ひ孫から受けてサムは合間に笑った。


「あのさ、友也。なにがしたかったの?」

「彼は、別の世界から間違った過去に来てしまったんですよ」

「んん?」

「つまり、彼は並行世界の人間です。考えるのも恐ろしいですが、ギュンター君がまともな人間の世界線から来た迷い人です」

「あー、そういうことか。ていうか、並行世界ってあるんだ!?」

「なんでもありの異世界ですね」


 転生、異世界、転移、といくつかのことは経験したが、まさかの並行世界に驚きを隠せない。

 同時に、面白いと思う。


「ていうか、別の未来から来ちゃったのに、この子どうするの?」

「さあ? ですが、過去に送り込むことができる人物がいるのなら――ほら、お迎えが来ましたよ」


 友也の推測通り、ウルムが現れた時と同じように暗雲が渦巻、少年を光が包む。


「――すまん。転移を失敗した。回収し、再び過去に送る」


 どこかで聞いたことがあるようなないような声が響き、ウルムの身体が浮かんでいく。

 彼はものすごくバツの悪そうな顔をすると、


「……すまなかった」


 小さく謝罪をした。


「あー、うん、並行世界の方なら仕方がないよ」

「いい経験をしたと思えば、はい」

「……そうか。だが、変態は滅ぶべきだと思う」

「それは同感だよ!」

「ならば、別の世界のサミュエル・シャイトよ! 僕の世界と同じ道を辿るな! クライド・アイル・スカイが国名を変えようとしたら、注意しろ! それがきっかけだ!」

「……はい。頑張るよ」

「そうしてくれ。この世界が、僕の世界のような悲劇に見舞われないことを祈っている」


 すでに手遅れのような気がする、と思ったがサムは空気を読んでなにも言わなかった。


「殺意を向けてすまなかった。僕の知るサミュエル・シャイトよりも強きサミュエル・シャイトよ」

「気にしていないと言うか、展開早すぎて感情が追いつかないんだけどさ!」


 サムの言葉を聞き、「違いない」と苦笑したウルムはそのまま光に包まれて消えて行った。


「一体何だっただろうね!」

「さあ?」


 残されたサムたちは、この短時間の起きたことの情報量の多さに困惑を隠せない。


「とりあえず、帰ろっか」

「そうですね」


 いまだに「ぶひゃひゃひゃひゃ! このことは絶対絵日記に書くっす、ひひひ!」と笑い続けているカルを放置して、サムは帰路につく。

 そして、今日のことは忘れようと誓うのだった。







 ――後日。

 クライドに呼び出されて「ビンビン王国って国名イケてない?」と相談され、断固として拒絶したり、「おじいちゃん、おじいちゃんの力を貸して!」と未来から孫が救援要請に来たり、「俺が最強のサミュエル・シャイトだ!」と並行世界の自分に襲われたとりと、様々なことがあったが、それはまたべつのお話。


 ちなみに、久しぶりの休日はなにもゆっくりできなかった。






 〜〜あとがき〜〜

 はい、ということで記念SSでした。

 しょーもない話ですみません!

 あ、一応、これはあくまで番外編であり、本編にまったく関係はありません。「if」の出来事だと思ってくださいますと幸いです!

 それでは、次回にて新章始まります!




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