閑話「陛下とジュラ公爵のお話です」②
ジュラ公爵の提案を聞き、クライドは顎に手を乗せ「ふむ」と頷いた。
「実を言うと、私も以前からサムに領地を与えたいと思っていた。だが、いらないと言われてしまってな」
「おそらく王都から離れたくないのでしょう。しかし、領地運営はサミュエル以外の誰かに任せればいいのです」
「……そうなのだが」
クライドとしては、トラブルに愛されるサムに負担を与えるのはどうかと思っていた。
貴族派貴族の粛清により、いくつかの領地が管理者のいない状況になっているが、周辺の貴族たちが協力して治めてくれているので、無理にサムに与えるのもどうかと思った。
取り潰しになった貴族の中には、悪政を敷いていた者もいる。
新しい領主が、宮廷魔法使いの肩書を持っていたとしても、十四歳の子供では民も不安になるだろう。
「ドローズ伯爵の元領地が管理者不在のはずです。そこをお与えになってはいかがでしょうか?」
「……王国最南端、海に面した領地か」
「その周囲の領地も貴族が問題を起こしているので、良い機会のなので取り上げてサムに渡してしまうのはいかがですか? 馬鹿な連中の悪事の証拠は用意してあります」
そう言って、ジュラ公爵は数枚の書類をテーブルに置いた。
「準備万端ということか」
クライドは苦笑した。
ジュラ公爵は、とても優秀な女性だ。
その手腕はあまり目立たないものだが、長年、貴族派貴族を押さえ込んでくれたことから信頼している。
「では、仮にサムが受け入れたとして領地運営は誰に任せる?」
「――私の娘オフェーリアに」
「ほう。つまり、そなたは娘をサムに嫁がせようと考えているのだな?」
ジュラ公爵との関係性ゆえに、公の場以外では会ったことがないが、クライドの記憶にはオフェーリアは十二歳という若さで優秀な学力を持っているはずだ。
その優秀さは学力だけでなく、一度興味を覚えたものには貪欲に挑戦する好ましい子だった。
「オフェーリアは誰に似たのか、頭が回る子です。領地運営に興味があるそうなのですが、さすがに公爵領を任せられないので、勉強をかねていかがでしょう? もちろん、補佐に信頼できる人間をつけます。あの子は、気が強く、少々口も悪いけれど、サミュエルなら平気でしょう」
「だが、それでは夫婦として関係が深まらないのではないか?」
「すでに問題解決済です。転移魔法を使用できる準魔王カル・イーラを一緒にサムの伴侶にすることを条件に、いつでも転移魔法を使ってもらえる約束を取り継ぎました」
「サムも苦労しそうであるな。だが、ビンビンでよし! では、サムに話をしてみよう。だが、乗り気でなければ私としては無理強いしない」
「構いません」
「あい、わかった。では、領地の件、オフェーリアと、カル・イーラ殿が嫁ぐ件を話してみよう」
「お待ちください、陛下。重要な部分が抜けています」
話をまとめようとしたクライドにジュラ公爵が待ったをかけた。
「なにか問題があったかな?」
「私が抜けています」
「――――うむ?」
「ですから、サミュエルに嫁ぐのは、私と、オフェーリアと、カル・イーラ殿です」
目を点にしたクライドであったが、しばらくするとジュラ公爵が言わんとしていることを理解し、残念そうな顔をして口を開いた。
「サムは年上好きであるのは間違いないが、そなたのような熟女はさすがにいかがなものかと思うぞ?」
◆
数日後、なにか怯えた様子でサムを呼び出すクライドの姿があったのだった。
〜〜あとがき〜〜
昨日、一昨日と励ましの言葉どうもありがとうございました!
まだ不調が取れませんが、少しずつ動いていこうと思います!
皆様も、熱中症にはお気をつけください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます