62「これからのことです」①
サムがジョナサンに回復魔法をかけるも、精神的な胃痛であるせいか回復しなかった。
担架で運ばれていくジョナサンを尻目に、友也がロボに声をかけた。
「駄目ですよ、ロボ」
「……貴様か。また俺の胸を触りにきたのか?」
一同の視線が友也に集まった。
アリシアもロボを守るように、彼女の腕を引いて友也から離そうとしている。
「誤解です! 僕の体質は前に説明したでしょう!」
「……数百年ほど前になにか言っていたが、貴様に興味はない」
「同僚なのに……まあいいです、いつものことですから。それよりも、あまり人間の国に干渉するのはよくありません……いえ、もう今更なんですけど」
魔王が女神として崇められている時点で、干渉しまくりである。
友也がエヴァンジェリンに視線を向けると、彼女は知らないとばかりにそっぽを向いた。
「残念なことに、魔王準魔王が干渉しているスカイ王国ですが、あなたの場合はあなたを崇拝する獣人たちが大挙してくる可能性があるので、考え直してくれませんか?」
「知らん」
「アリシア殿はもちろん、そのご家族にも迷惑がかかりますよ」
「サミュエル・シャイトにすべて託した」
「勝手に託さないでください。確かに、あなたの敗北を知れば、獣人たちがサムにひれ伏すんでしょうけど、それでも一定数はあなたからはなれませんよ」
「……つまり、皆殺しにすればいいのだな?」
「でーすーかーらー!」
元々ロボは、獣の国を放置していたので、住民たちに対して愛着もなにもない。
ときどきどうでもいいことを報告してくる老いた人狼の名前さえ知らないのだ。
「冗談だ。あの国には獣人だけではなく、他の種族も住んでいる。戦士以外と戦うつもりはなく、弱者をいたぶるような趣味もない」
「……驚きました。あなたも冗談が言えるんですね」
友也は心底驚いた顔をした。
戦いか、穴蔵で引きこもるくらいで、誰とも関わりを持たなかったロボが、まさかこのような軽口を叩く日がくるとは。
きっとレプシーが生きていれば喜んだだろう。
「俺をなんだと思っている……いや、今までが今までだから無理もない」
「自覚があるならなによりです」
「ふん。かつて、貴様たちと約束した以上、魔王はやめない。来る日には、その責任も果たす。それだけは、ロボ・ノースランドの名にかけて誓う」
「なら、いいでしょう」
「よくねえよ!」
ジョナサンを見送ったサムが、魔王ふたりの間に割って入る。
サムの背後には獣人であり獅子族のボーウッドが顔を覗かし、ロボに向かってあまり大きくない声を上げた。
「おうおう! 兄貴を困らせるんじゃねえよ!」
「……お前は……確か、ボーウッド・アットラックか」
「お、俺の名前を覚えているのか!?」
ボーウッドは、まさか自分の名をロボに覚えられているとは思わず、目を剥いた。
それは、友也をはじめ、ロボ・ノースランドを知る者なら誰でも同じだろう。
基本的に他者には興味のない彼女が、名を覚えているだけでも僥倖だ。
「お前は、挑んできた奴らの中で、一番気概があったので覚えている。俺に屈することもせず、再び挑もうとしていることも知っていた」
「べ、別に名前を覚えてもらっていたからって嬉しくないんだからねっ!」
ボーウッドは、顔を赤くしてくねんくねんとその巨体をくねらせた。
サムはその反応に「おや?」と思うことがあったが、触れないことにした。
デリケートな問題に思えたので、この場でどうこうするのは無粋だろうと思ったのだ。
ボーウッドが、サムの背後からちらちらロボを伺っていると、エヴァンジェリンが走ってきて背中に蹴りを入れた。
「反応がきもいんだよっ! 乙女か!」
どうやらボーウッドの反応がお気に召さなかったようで、エヴァンジェリンは「ふげっ」と地面に倒れた彼の背に乗り、あぐらをかくと、ロボを睨んだ。
「この国に魔王はいらねえ。変態と一緒にとっとと出て行け! あ、ダーリンは別枠だからもちろんオッケー!」
「相変わらず僕の扱いが悪い!」
「貴様程度の竜が俺に意見するな」
友也は同僚の扱いの悪さに涙し、ロボはエヴァンジェリンを鋭い眼光で睨み返した。
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