63「これからのことです」②
「お? なんだ、その目は? やんのか? おい、青牙、青樹、竜が馬鹿にされてるぞ、可愛がってやれ!」
急に小物みたいなことを言い出したエヴァンジェリンに兄姉は、ぶんぶん、と首を横に振る。
「無理だ! 死ぬ!」
「私たちが可愛がられる未来しか見えないんだけど!」
青牙と青樹が悲鳴を上げた。
プライドの高い二人だが、ロボの実力がわかるのだろう、エヴァンジェリンを盾にして視線から逃れようとしている。
「……確か、え、エバ……エバーグリーンだったな」
「ちげえよ! エヴァンジェリンだっ! お前なぁ、親交こそ少なかったけど、名乗っただろ! 同じ魔王の名前くらい覚えておけって!」
「知らん。俺はレプシー以外名前を覚えていない。いや、レプシーも、その名しか知らん」
「私はエヴァンジェリン・アラヒーだ! レプシーだって、フルネームで覚えておけよ、レプシー・ダニエルズだ! ボーウッドを覚えているのに、私たちの扱いが悪すぎんだろ!」
名前さえまともに覚えられていなかったエヴァンジェリンの尻の下で、「お、俺の名前だけはちゃんと覚えてくれている、だと……なんだ、この気持ちは、とぅくんってなった、もしかしてこれが――」とときめいているボーウッド。
「やっぱり、きめぇ」とエヴァンジェリンが嫌そうな顔をすると、立ち上がり、スカートを叩いた。
「ん、で、だ。この国は私の管轄だ」
「知らん」
「いや、スカイ王国は君の管轄じゃないんですけどね」
「女神エヴァンジェリン様だぞ! このやろう!」
「だから、知らんと言っている。というか、お前は魔王で竜なのに、なぜ女神だ?」
しょうもない縄張り争いが始まったが、エヴァンジェリンもロボも魔王だ。
仮に、戦うことがあれば、王宮が巻き込まれて破壊される可能性もある。
(――割って入りたくないけど、ここは俺が……でもなぁ、エヴァンジェリンは神殿があるし、ロボをアリシアから離すもかわいそうだし……友也に丸投げできないかなぁ)
「サム、言っておきますが、エヴァンジェリンとロボは僕の言うことなんて絶対に聞きませんからね?」
「俺の心読むなよ」
「押し付ける気満々な顔をしていましたから!」
サムが面倒ごとを友也に丸投げしようと考えていると、釘を刺されてしまう。
(疲れも溜まっているし、お家帰りたいからそろそろお開き――にはならないかな?)
吸血衝動から始まり、ダニエルズ兄弟と戦い、魔王に至り、竜と一悶着あり、竜王候補玉兎と戦い、パーティーで父親のかつての婚約者ジュラ公爵と出会い、変態に因縁つけられ、そしてロボと戦闘だ。
二十四時間の間にイベントが起こりすぎて、サムもクタクタだった。
すでに眠気も覚えていたサムが、目を擦った時だった。
「――やあ、お待たせしたね」
今、一番聞きたくない男の声がした。
恐る恐る声のする報告に顔を向けると、
「なんで魔法少女の衣装を身につけているんだよぉ!」
青い魔法少女と化したギュンター・イグナーツがいた。
彼の手には、ご丁寧にステッキまである。
青色を身につけているのは、王家の血を引いているからなのだろうか、と首を傾げる。
だが、そんなことはどうでもいい。
変態が魔法少女の格好をしていたとしても、変態であることが変わるわけではないのだ。
問題は、この場を引っ掻き回すであろうスカイ王国の問題児が満を持して現れたことだ。
ギュンターは前髪を気障ったらしくかき上げると、満面の笑みを浮かべた。
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