60「そこにいたそうです」②





「アリシア?」


 サムが驚いたのは、無理もない。

 戦いが終わったばかりだというのに、アリシアがリーゼたちを伴いこの場にいたからだ。


(しまった。結界のせいで外部の気配が感じられなかったのか。だけど……みんなまでどうして?)


 なにかあったら、どうするんだ、と声を上げそうになったが、アリシアの背後には炎樹、青牙、青樹、エヴァンジェリン、ゾーイ、カル、ダニエルズ兄妹、ダフネ、ボーウッドが警戒しながら控えてくれている。


「ああ……そんな……」


 サムの胸ぐらから手を離したロボが、信じられないものを見たとばかりに目を見開き、アリシアにゆっくり近づき、手を伸ばした。

 突然ロボが動き出したのでサムが止めようとするが、アリシアが微笑んだ。


「アリシア、離れるんだ!」

「大丈夫ですわ、サム様」


 ロボにアリシアに対する敵意はないように見えるが、不安はある。

 もっとも、速さが自慢の魔王も、サムと戦ったせいで体力魔力ともにほぼないに等しい。まだ余力のあるサムや、魔王、準魔王たちも今のロボなら制することはできるだろう。

 エヴァンジェリンに目が合うと、万が一のときは動いてくれるのだろう。頷いてくれた。

 最悪の場合は、背後からロボを斬り殺すこともサムは視野に入れて、空になり掛けの魔力を高めた。


「……そこに、いたのか」


 まるで待ち焦がれていたなにかを求めるように、ロボが伸ばした手がアリシアの頬にそっと触れる。

 アリシアは、ロボの手に自らの手を重ねた。


「ずっと、ずっと会いたかった。会いたかったんだ」


(――もしかして、いや、そんなことってあるのか?)


 ロボの言動から、サムの脳裏にとある推測が生まれる。しかし、確信はなく、信じられることではない。

 涙を流すロボに、アリシアは柔らかな声でロボの名を呼んだ。


「――ロボ様」

「ああ」

「不思議ですが、わたくしはあなたに伝えなければならない言葉があるのです」

「……頼む、聞かせてくれ」


 不思議なことに、サムの目にはアリシアの隣に小さな少女が見えた。

 きっとアリシアが幼ければ、瓜二つと思えるほど、よく似た少女だった。

 サムが突如現れた少女の姿に驚いていると、アリシアと少女は揃って言葉を口にした。




「――おかえりなさい」

「――ただいま」




 ボロボロと涙を流しながら、ロボはアリシアを抱きしめた。

 数百年生きているにもかかわらず、まるで幼い子供のようにわんわんと泣いた。


「……ロボはずっと帰りたかったのか」

「ええ、家族のもとに。しかし、生きて、と望まれたので自分では死ねず、殺してくれる誰かを求めて彷徨い続けた。ですが、ロボは強すぎた。レプシーくらいしか彼女を殺せる魔王はいません」


 サムの傍に立った友也が、少し瞳を潤ませていた。


「友也なら?」

「僕は無理ですよ。いくつかロボを殺す手段はありますけど、それも実際にどれだけ通じるか」

「レプシーはどうしてロボを殺さなかったのかな?」

「……自己満足だと言っていました。ロボにはもっと他者と接し、誰かを愛し、世界に絶望しかないわけではないのだと教えたかったんです。ちょうど、同じくらいのころに奥さんと出会っていたのでその影響もあったでしょう。――しかし、その後、レプシーは暴走し、現在に至ります」

「なるほど」


 レプシーの妻子が殺されず、幸せな日々を送っていたとしたら、ロボももっと違った日々があったのかもしれないと思う。

 もしくは、今日、この瞬間まで、ロボは救われなかったのかもしれない可能性もある。


「ところでさ、生まれ変わりっているのかな?」

「アリシア殿のことですね? 残念ながら、僕にはわかりません。ですが、転生した僕たちがいるんですから、アリシア殿が誰かの生まれ変わりであることだってあるんじゃないでしょうか」

「そう、だよね」


 不思議なものだ。

 サムと友也は日本からこちらの世界に転生した。その理由はわからない。

 運命の悪戯か、それともなにか誰かの目的があったのか。


(真面目に考えたことはなかったけど、アリシアとロボがこうして出会えたように、俺にも転生してここにいる理由があるのかもしれないね)




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