59「そこにいたそうです」①





「……なぜ、俺は生きている?」


 魔王ロボ・ノースランドは、身体を横一閃に両断されながら生きていることに驚きを隠せずにいた。

 切り落とされた腕はつながっているし、胴体もくっついている。

 ロボが再生能力を持つとはいえ、あれだけの傷を負えば再生も不可能なはずだった。


「また死に損なったか」

「おいおい、勘弁してくれよ。死にたいならよそでやって。俺を巻き込まないでくれないかなぁ」


 ロボの呟きを拾ったのは、サミュエル・シャイトだった。

 サムは疲れた顔をして、倒れるロボの横に座っていた。

 久しぶりに全力で戦い、敗北したレプシーの後継者だ。


「……お前が生かしたのか」

「あんたが死んだら面倒ごとが押し寄せてくるらしいからね」

「余計なことを。レプシーにも、その後継者にも殺してもらえなかったのか」


 未だ、なぜあの子が「生きろ」と言ったのかわからない。

 自分を殺してくれるはずのレプシーもいなくなった。

 他の魔王では、自分を殺せない。

 ならばレプシーを倒したサムなら――と、期待していたのだ。


 戦いは素晴らしかった。

 かつてレプシーと戦ったことを思い出すのに十分だった。

 理解できない斬撃とレプシーの吸収能力を合わせた強力な一撃で、間違いなく死んだはずだった。

 しかし、こうして生きている。


「あんたさぁ、なんで生きているの?」

「……なに?」

「そんなつまらなそうな顔をして、死にたかったなんて。くだらない。死にたいなら、他所で勝手に死ねばいいのに」

「……私はかつて彼女と約束した。生きる、と。だから自分では死ねない」

「だからって、死に場所探していたら同じだろ。ったく、その彼女が何者か知らないけど、余計なことをいうなって感じだね」

「――あの子のことを悪く言うな!」


 ロボはとっさに腕を伸ばし、サムの胸ぐらを掴んだ。

 しかし、サムは苦しむそぶりも見せず、淡々と続けた。


「悪くは言わないけど、あんたを見ていたら余計なことを言ったって思うじゃん。なにを思って、そんな無責任なことを言ったのか知らないけど」

「やめろ! あの子は、あの子は違う! 無責任ではない、悪くない、あの子は――」

「あの子は?」

「……あの子は、なぜ俺に生きろなどと言ったのだろうか? あの時、死の間際に、なぜ笑顔を浮かべて、俺に生きろなんて。恨み言を言えば、あの子の代わりにすべてを恨み滅ぼしてやった。一緒にいて欲しいと願ってくれれば、喜んで俺が朽ち果てるまで傍にいたのに――なぜだ!」


 ロボは涙を流した。

 家族が二度も奪われたときに流して以来だった。


「――生きろ、と言ったのはきっとあなたのことを愛していたからですわ」


 ロボは、どこか懐かしさを覚える声に、飛び起きる。

 サムも、声の主が誰だかわかり、驚いた顔をした。


「あなたのことを愛して、幸せになってほしいから、生きろと言ったのですわ」


 そこには、アリシア・シャイトがいた。




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