56「ロボの過去です」①
獣の王であり魔王ロボ・ノースランドは、獣人や獣の中で頂点に立つ強者だった。
もともと名などない、言葉も発せられない獣だった彼女は大陸北側の森に小さな銀狼の子として生を受けた。
誇り高き父と、優しい母、そして数頭の兄弟たちと一緒に、獣らしく狩りを学び、育ち、成長していく。
彼女にとって、当たり前の生活が穏やかに流れていた。
――が、それはロボが生まれて数年で崩壊した。
北部にあった人間の国では、狼の毛皮はコレクションとして高く買取されており、また王族や貴族の嗜みとして狼狩りという遊戯があった。
ロボたちは雪よりも輝く銀色の体毛を持ち、他の狼と比べて一線を画した美しさがあった。
人と関わることはしなかったが、いくつかの目撃例から銀狼は存在すると確信した人間たちによって、躍起に探されていたのだ。
そして、はじめに兄弟たちが人間たちの罠にかかって殺された。
次に、敵討ちに出た両親が射殺されてしまった。
ロボは――当時、戦う術を持たない、ただの狼でしかなかった彼女は、逃げ出したのだ。
人間に復讐することも、家族の後を追うこともできず、恐怖から逃げ出してしまった。
その後、空腹を水や木の実でしのぎながら、逃げ続けていた。
当てなどなく、どこにたどり着けば安全かもわからない。
魔獣やモンスターの影に怯え、ときには狼を見つけるが目立つ毛並みから敵意を持って攻撃を受けた。
気づけば、美しかった体毛も薄黒く汚れ、痩せ細ってしまう。
迫りくる死を前にしたが、不思議と不安はなかった。
ようやく家族のもとにいける、と安堵すらあった。
ゆっくり目を瞑ったロボだったが、次に目を覚ますと、小さな部屋の中にいた。
すぐに人間の匂いがわかり、囚われている――と思ったが、鎖に繋がれているわけでもなく、檻に入れられているわけでもない。
自分の体毛が綺麗になっていて、傷の治療もされていると気づくと、彼女は「なぜ?」と疑問を浮かべた。
だが、油断せず、警戒していると、扉が開かれる。
すると、気の良さそうな人間の男と、同じ匂いがする小さな子供の女が部屋の中に入り、目覚めているロボに笑顔を向けた。
「よかった! 眼が覚めたのね? お腹減っているでしょう?」
不思議と人間の言葉がわかったロボが視線を動かすと、少女の腕の中に少量だが生肉と果実があるのを確認した。
同時に、自分が空腹を超え、飢えに近い状態だということを思い出し、腹が鳴った。
ロボが、人間を前にみっともない姿を晒したと悔しく思っていると、目の前に肉と果実の乗った皿と、水が入った皿が置かれた。
「さあ、食べて!」
どうしてだろうか、家族を奪った人間であるのに、その笑顔に懐かしさを覚えた。
気づけば、空腹に耐えられず貪るように食べた。
少女が頭を撫でても気にならないほど、一心不乱に食事をし、生きながらえたのだとわかった。
人間に助けられて悔しかったのか、それとも助かったことを喜んだのか、ロボの瞳から涙が溢れた。
そんなロボを、少女は怯えのかけらも見せずに力強く抱きしめた。
そして、少女は優しい声で言ってくれた。
「今日から、家族になりましょう」
ロボから家族を奪った人間は、ロボに家族を与えてくれたのだった。
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