55「魔王の期待です」





(――素晴らしい! 素晴らしいですよ、サム!)


 魔王遠藤友也は、サミュエル・シャイトに対して、何度目になるのかわからない感動を抱いていた。

 同じ日本出身であることや、数少ない友人のひとりとして心を許しており、今までの彼に対する手助けも善意だった。


 しかし、今回のサムの成長を目の当たりにして、大きな欲が生まれてしまった。


 サムが魔王に至ったことで強くなったことは知っていた。

 レプシーの力を継承していることから、いずれ最強の魔王と謳われたレプシーに届く存在になると期待していた。

 時間をかけ、適切に導けば、百年ほどで本当の意味で魔王にふさわしい実力を手に入れることができると確信していた。


(僕は見誤っていました。君は、すでに魔王だ。魔王に至ったという意味ではなく、本当の意味で魔王にふさわしい力を持っていたんですね)


 魔王ロボの背景を知っている身として、魔王に至ってすぐに彼女を倒すほどの実力があるとは思っていなかったのだ。

 レプシーの力を使っているのもそうだ。


(百年もいらないですね。あと数年あれば――君は最強の魔王になるでしょう)


 きっとサムは、つまらない、退屈だと思うかもしれない。

 だが、かつてのレプシーのように魔王という立場になってこそ、得た安寧もあったのだ。

 短い時間であったのが残念でならないが。


(そして、戦闘だけではない。ロボを閉じ込めるどころか、魔王がふたり戦って最後まで持ち堪えた結界まで作り……回復魔法まで使えるようになったとは)


 目の前では、横たわり安定した呼吸をする魔王ロボの姿があった。

 無論、彼女の腕と胴体が繋がり、短かった髪まで長くなっている。

 そんな彼女の横に、「つかれたぁ!」とサムが尻餅をついていた。


(ウルリーケ・シャイトの教育がよかったのか、サムそのものが学習能力が高いのか……結界を作り、回復魔法を使い、複数の魔法を操る。これは、いけるでしょう)


 膨大な魔力に頼っていたが、胴体を両断され瀕死のロボを全快させた肩を竦めるには目を見張るものがある。

 まだ使いこなせていないようだが、これほど魔法の幅を持つ者も珍しい。


(レプシーの力を本当の意味で使いこなすことができれば、いいえ、自分の力とすることができれば、君は魔王ふたり分の強さを持つことになるんですよ?)


 友也は、サムと出会ってからというものの、短い時間で何度、驚き、期待し、いい意味で裏切られて喜んできただろうか。


(サム、君なら、君ならば可能性があります!)


 いずれサムは知るだろう。

 魔王の存在理由を。


(君ならば、『あれ』を殺すことができるかもしれません!)


 自分にはできそうもなく、最古の魔王ヴィヴィアンでも無理と思われる相手がいる。

 その存在を、いずれサムなら――と、友也は大きく期待した。


(ありがとう、サム。どうやら、君のおかげで僕もやる気になれそうです)




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