39「ジュラ公爵と娘のお話です」①
魔王と竜王を歓迎するパーティーが開かれる数時間前。
ジュラ公爵家にて、イーディス・ジュラ公爵は、執務室に呼び出した娘――オフェーリア・ジュラと執務机を挟んで睨み合っていた。
「嫌ですわ!」
母親と同じ癖ひとつない銀の混ざった金髪を背中まで伸ばした少女オフェーリアは、はっきりと嫌悪を出して大きな声を出した。
十二歳という幼い少女でありながら、母親に似た顔立ちは大人びて見える。
背丈も同い年の少女の中では、高く、足もすらりと長い。
自宅なので、着ている服もドレスではなく、短調なブラウスとスカート、足元はサンダルだ。どこか快活さもある、元気な少女だった。
そんなオフェーリアは、母の言葉を遮り拒絶を示していた。
「……オフェーリア、まだ話の途中よ」
「ですから、話を全て聞かずとお断りしますと申しているのですわ!」
「なぜ? よい話だと思うのだけど?」
「どこかですか!? わかりました、ええ、わかりましたとも。どうやらお母様はご自身がなにをおっしゃっているのか理解していないご様子ですわね。では、ちゃんと言葉の意味を理解するためにも、もう一度発言の許可を差し上げましょう!」
執務机に座って足を組む母に対し、オフェーリアは仁王立ちだ。
最初こそ、座って話そうとしたイーディスも、部屋に入ってきて早々臨戦態勢の娘に困った顔をしていた。
「では、もう一度言うわ。――私がサミュエル・シャイトと結婚できない場合、あなたがサミュエル・シャイトと結婚なさい。もしくは、親娘揃って彼に嫁ぐことになるかもしれないので準備をしておくように」
「……ご自身がなにをおっしゃったのか理解できましたか?」
頭痛を堪えるようにオフェーリアは、額に手を当て、嫌味をかねて思い切りため息を吐いた。
しかし、母は首を傾げ、自分の言葉のなにが悪かったのか理解していないようだ。
「誰か好きな男が他にいるの?」
「いません。ですが、そういうお話ではありませんの!」
「では、何が不満だ?」
「不満も不満、不満だらけですわ!」
「そうなの?」
「ええ、そうですとも! 政略結婚は仕方がないでしょう。貴族の、それも公爵家に生まれて良い生活をさせていただいたのですから、家のために結婚することに不満などありません! しかし! なぜお母様が結婚できなかったら、とか、お母様と一緒に結婚という可能性が盛り込まれていることが理解できないのですわ!」
自分だけが結婚するなら理解できるのだが、母親の代わり、もしくは母親とセットでというのが理解に苦しむのだ。
なによりも我慢できないのが、相手がサミュエル・シャイトということだ。
「そして、相手にも不満があります! 政略結婚ならば、我慢はしますが、ついでなので言わせてくださいませ!」
「あの子にどんな不満が?」
「不満だらけですわ! サミュエル・シャイトがスカイ王国に現れてから半年ほどですが、あれほどの変態いませんわ! よりによって、わたくしの嫁ぎ先が、スカイ王国始まって以来の変態なんて、さすがに泣きますわよ!」
「……スカイ王国始まって以来の変態は、ギュンター・イグナーツよ?」
「あの変態に愛されている時点で、変態中の変態、ド変態ですわ! ギュンター・イグナーツ様だけではありませんわ! 最近、壊れてしまった陛下だって、サミュエル・シャイトが原因らしいではないですか!」
「陛下は昔からあんな感じよ。むしろ、今までのほうがおかしかったわ」
「そんなこと知りませんわ! 仮に、仮にですが、わたくしとサミュエル・シャイトの子供が生まれて、ビンビンとか言い出したら、さすがに泣きますわよ!」
どのような未来を想像しているのか不明だが、オフェーリアの中でサムは相当の変態として認識されているようだ。
政略結婚として我慢するするつもりだが、それでも母に物申したいようだ。
「リーゼロッテ様、アリシア様、花蓮様、水樹様、フランチェスカ様、ステラ王女殿下のことは存じています。ええ、よい方ですわ。仮に、同じくサミュエル・シャイトの妻になるのなら、不満はございませんし、素敵なお姉様たちができると喜ばしいのですが――」
「ならいいじゃない」
「オプションでギュンター・イグナーツ様とクリーさんもついてくるではないですか! ギュンター・イグナーツ様はもう言うまでもありませんが、奥様のクリーさんは以前お話しましたが、怖いです! なんと言いますか、ギュンター・イグナーツ様に狂っているのです! 普通、夫の下着を薬だと言って匂い嗅ぎますか!? お茶会の退席理由が、そろそろ夫を調教する時間ですから、なんて言う方、初めて見ましたわ!」
はぁはぁ、ぜぃぜぃ、と息を切らして肩で呼吸をするオフェーリア。
彼女は、スカイ王国に生まれスカイ王国王都で育った生粋のスカイ王国っ子だが、あまり変態耐性がないのだった。
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