34「ジュラ公爵とお話しします」③




「え?」


 ジュラ公爵から、いきなり父親の話をすると言われ、サムは間の抜けた声を出した。

 まさか元婚約者がサムのために、過去を語ってくれるとは想像していなかったのだ。


「なぜそんな驚いた顔をするの? もしかして、必要ないの?」


 サムと同じようにジュラ公爵も驚いた顔をした。


「はっきり言ってもいいですか?」

「遠慮しないで、どうぞ」

「特に興味はありません」


 せっかくのご好意であることは重々承知しているが、亡くなった人間にそれほど興味がない。

 ロイグ・アイル・スカイに対するサムの感情は、さほど大きくない。

 剣がまるで使えなかったことなどには親近感を覚えるのだが、それくらいだ。あとはどちらかと言うと、事情はさておき、母メラニーと恋人関係でありながら最終的に別れてしまったことから無責任な男だと思うくらいだ。


 もちろん、母から当時の事情を聞いているし、仕方がなかったと当事者が納得しているので悪く言うつもりはないが、出奔していたとはいえ王族なら権力を駆使してでも母を最低限幸せにすべきだったと思う。

 以前はさほど気にならなかったし、興味もなかったが、愛する人たちとの間に子供ができた今は、ロイグに対して同じ男として思うことはいくつかる。

 が、その程度でしかない。


「――あら、冷たい子ね」

「申し訳ありません」


 非難の言葉と思いきや、ジュラ公爵は興味深そうな顔をしていた。


「謝罪なんていいのよ、ただの感想だから。でも、そうね、てっきり父親のことを知りたいのかと思っていたわ。陛下からも少しは聞いているかもしれないけど、私は私で陛下の知らないロイグを教えてあげようかと思ったのだけど。大きなお世話だったみたいね」

「いえ、そんな」

「……でも、本当にロイグと雰囲気は似ているのに、中身は似ていないのね。性格的には、私に似ているわ。もし、私がロイグと予定通りに結婚していたら、あなたのような子が生まれたのかしら?」


 なんとも返事に困る疑問だった。


(そうですね、と言っても、違いますね、と言っても微妙な空気になりそう)


 サムが言葉を選んでいると、答えを求めていなかったのか、公爵が話を進めた。


「それで、どうしようかしら? ロイグの話を聞く? 聞かない?」


(……なんていうか、ロイグ・アイル・スカイの話をしたいんじゃないかなって思うのは気のせいかな?)


 口が裂けてもそんなことをジュラ公爵に言えないのだが、興味ないからいいです、とも言い辛い空気になっている。

 ただ、ロイグという男よりも、ジュラ公爵の過去に興味が沸いたサムは、話を聞いてみようと思った。


「えっと、では、お願いします」


 サムが頭を下げると、ジュラ公爵は嬉しそうに頬を緩めた気がした。


「気を使わせちゃったみたいね。でも、父親がどんな人だったのか知っておくのも悪いことではないわ。今後、関わる貴族の中にはあなたとロイグを比べる者もいるでしょうから」


 そんな前置きをして、ジュラ公爵は語り始めた。


「そうね、まずロイグ・アイル・スカイは――スケベな子供だったわ」

「……えぇぇぇぇぇぇぇ」




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