32「ジュラ公爵とお話しします」①
「サム」
「サム様」
「はい? あ、リーゼ、ステラ」
クリーの母が魔法少女であった事実に衝撃を覚えているサムに、妻のリーゼとステラが声をかけてきた。
ふたりは、自分に代わって貴族たちを挨拶をしてくれていたのだが、終わったのでこちらにきてくれようだ。
しかし、どことなく様子が変に見えた。
「俺の代わりに挨拶をさせてしまってすみません。……どうしましたか? なにか気になることでも?」
「挨拶はいいのだけど、サムがジュラ公爵とお会いしたと聞いたから」
「ええ、感じの良い方でしたよ。あとでお話しする約束をしましたけど」
「……遅かったですわ」
「そうね」
ふたりは顔を見合わせると、遅かった、と言わんばかりにため息をついた。
その反応から、間違いなくジュラ公爵と父親の関係を知っていたと思われる。
「ジュラ公爵のこと、ご存知だったみたいですね?」
「私は過去にそういう話があったくらいなのだけど、ステラはほら」
「一応、王女ですから、ジュラ公爵とロイグ様のことは、はい。以前から知っていました」
リーゼはともかく、ステラは王族だ。
公爵家と王族の婚約にまつわる話を知らないわけがない。
「心配してくれてありがとうございます。でも、ジュラ公爵はそんなに悪い方ではないと思います」
「……そうなのかしら?」
「あまりこういう言い方はしたくありませんが、貴族派のトップの方ですし」
「そうらしいですが、話した感じは特に。まあ、なんとなくでしかないんですが」
勘というべきか、なんというべきか、少なくともサムはジュラ公爵が悪い人だとは思わない。仮に、サムの勘が外れたとしても、その時はその時で対応すれば良いだけの話だ。
「きっとあれっすよ、サムさんは熟女が好きなんっすよ。ほら、奥さんたちがみんな年上じゃないっすか!」
「あのね、わたしたちはサムより年上だけど熟女じゃないわよ!」
「失礼ですわ!」
「いやいや、でも竜王さんや、エヴァンジェリンさん、ゾーイさんとか、サムさんより全然年上っすよ。熟女中の熟女ですよ!」
いつの間にか、大皿に載せられた食事を平らげていたカルが暴言とも取れる言葉を吐くと、エヴァンジェリンとゾーイが容赦無く蹴りを放った。
炎樹は気にした様子がない――ように見えたが、一瞬だけ頬が引きつっていた。
「誰が熟女だ! 人間感覚でいうじゃねーよ!」
「私が熟女なら貴様も熟女ではないか! なにを自分は関係ないみたいに言っている!」
「いやいや、私はこんなに可愛いんで、年齢的には生きてますが熟女枠ではないっすよ」
「なら私だってぴっちぴちじゃねーか!」
「私を見ろ! この幼い体型を――って、誰が幼女だ!」
「言ってねーっす!」
仮にも魔王と準魔王の会話がこれだ。
サムは頭が痛くなった。
(そもそも俺は別に熟女好きじゃないし。好きになった人が年上だっただけなんだけどな)
青樹も「え? 私も熟女なの?」と動揺しているし、熟女枠であるシフォンに至っては「あ、あの、あまり熟女熟女言わないでほしいのですが」とダメージを受けている。
「サム、ところで、この方はどちら様なのかしら? お言葉から察するに、魔族のようだけど」
「俺もさっき知り合ったばかりなんですが、準魔王で友也の部下らしいカル・イーラさんです」
「どうもっす! 変態魔王の部下と準魔王やってます、カル・イーラっす! あと、サムさんのお嫁さん候補なんで、よろしくお願いしまっす!」
余計な一言を付け加えたカルから、リーゼが視線を動かした。
「お嫁さん候補? 知り合ったばかりなのに、随分と仲がよろしいようで」
「勝手にカルが言っているだけです」
「……責めているわけではないわ。カル・イーラ様」
「カルでいいっすよ!」
「では、カル」
「はいっす!」
「後日、お話をしましょう。その時に、面談です」
「了解っす!」
「ちょ、面談ってなんですか!?」
まさかカルを受け入れてしまうのかとサムが慌てる。
リーゼだけではなく、奥さんたちはサムに妻を増やそうと目論んでいるのだ。
「――しゃっ」とガッツポーズするカルが面談で落とされますように、とサムは心の中で手を合わせた。
「リーゼロッテ・シャイトよ」
「はい。竜王様」
ワインボトルを一本空にして満足げな炎樹が、まったく酔った気配なくリーゼを呼んだ。
「炎樹と呼ぶといい。私も面談を頼む」
「かしこまりました」
「ちょ、リーゼ!?」
「ママっ!? リーゼ、私も!」
炎樹が面談を申し入れ、エヴァンジェリンも手を上げる。
「いえ、エヴァンジェリン様はすでに合格ですのでご安心ください!」
「え? そう? ふふん! わかっていたけどな! よろしくなダーリン!」
「まって、まって、俺の知らないところでサクサク決めないで!」
知らぬ間にエヴァンジェリンがリーゼの中で合格していることに驚き、大きな声をサムが出した時、
「ご歓談中失礼致します」
初老の執事が腰を折り、声をかけてきた。
「……まさかあなたも面談の申し込みですか?」
「面談? いえ、私めはジュラ公爵の使いです」
「リーゼ様がボケたらもうツッコミが追いつきませんって」
「……ごめんなさい」
執事が首を傾げると、リーゼは恥ずかしそうに謝罪した。
「サミュエル・シャイト様。ジュラ公爵とのご歓談場所の準備を整えさせていただきました。差し支えなければ、ご一緒していただけますか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。ジュラ公爵もお喜びになるでしょう」
深々と腰を折る執事が顔を上げると、「こちらです」と先行する。
「サム、その、気をつけてね」
「サム様、くれぐれも大事ありませんように」
「リーゼもステラも、心配症ですね。大丈夫ですって」
「サム! 僕のしらないところで嫁を増やさないように! いくらジュラ公爵といえど、僕の許可なく嫁入りは許さないよ!」
「クリーさん、お願いします」
リーゼとステラに大丈夫だと笑顔を向けると、ギュンターが割って入ったので、彼の奥さんに任せることにした。
クリーはその可憐な幼い顔に、艶やかな笑みを浮かべると、ギュンターの腕を引く。
「お任せください、サム様! さ、ギュンター様、こちらへ。休憩室を抑えてありますの、すでにいろいろ持ち込んでありますので、第二回戦ですわ!」
「は、離したまえ、僕はもう気力も何も残っていないのだ!」
「ならば次はわたくしの番ですわね!」
「ちょ、力が強いっ! 君、妊婦なんだからもっと安静に、というか、おやめください! おやめください!」
「よいではないか、よいではないか!」
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
寸劇を挟むくらいなのでなんだかんだ仲がいいのだろう。
ずりずりと引きずられているギュンターを見送って、サムもジュラ公爵の元に向かおうとする。
「……もしかして、また結界解けたりしませんよね?」
友也の不安げな声が聞こえると同時に、
「リーゼとステラはとにかく離れてください! 俺はジュラ公爵の元へ。さ、早くいきましょう!」
「ちょっと、見捨てないでくださいよ!」
サムは妻を逃すと、自分も安全を求めて逃げ出した。
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