21「ジュラ公爵とお話しします」①




「我が国の人間が申し訳ございませんでした。公爵として謝罪しますわ」


 視線の集まる中、丁寧にジュラ公爵は友也に謝罪をした。

 しかし、謝罪された側の友也は気まずい顔をしてしまう。それもそうだ。いくらレロード伯爵が友也に下心があり近づいてきたとしても、ラッキースケベによって辱めたのだ。これで謝罪までされると、立つ瀬がない。


「謝罪は必要ありません。むしろ、こちらのほうが申し訳なく、思っています。まさかこんなことになろうとは……」

「そう言っていただけるのであれば幸いですわ。私たちは、レロード伯爵のようにくだらぬことを考えていません。魔王様方を煩わせるつもりもございませんゆえ、どうぞパーティーを楽しんでいただければ嬉しく思います」

「お気遣い感謝します。お言葉に甘えて、楽しませていただきます」

「……またご機会がありましたら、それでは失礼します」


 一礼してジュラ公爵が友也から離れると、今まで静まり返っていた会場が少しずつ参加者の声で賑やかになっていく。

 声の中には、ジュラ公爵を怖がる者から、醜態を晒したレロード伯爵への侮蔑、最後に魔王の怒りを買ったら脱がされる、というものまであった。


「――サムっ!」


 会場の雰囲気が若干戻ると、友也は従者たちと一緒にサムに近づいてきた。心なしか、怒っているようにも見える。


「どうして助けてくれなかったんですか!」

「いやぁ、助けたかったんだけど、近づいて俺までズボンを降ろされたらたまらないので」

「それはそうでしょうけど、といいますか、ギュンター君! どうして君は僕に張ってくれたはずの結界を解いちゃったんですか! おかげで酷い目に遭いましたよ!」

「……そのことについては謝罪しよう。だが、ママとの戦いには全力が必要だったのだよ!」

「なにを言っているのかわからない! 君のおかげで、僕は見たくもない男の股間を目の前で凝視するはめになったんですよ! もうちょっと近づいていたら大惨事になっていました! おえっ!」


 最悪すぎる事態を想像してしまったのか、友也は吐き気を催してしまった。

 気持ちはとてもわかる。

 万が一、あと一歩ほど距離が近づいていたら、友也の顔とクロードの股間は物理的にこんにちはしていただろう。

 サムとギュンターも想像してしまい、身体が震えてくる。


「――ぶはっ! いいじゃねえか、変態魔王なら変態魔王らしく変態を極めちまえよ!」

「そうっすよねー。今更、男の股間とどうにかなっちゃっても、変態魔王の名前に傷なんかつかねーっすよ。むしろ、一目おかれるっすよ!」

「……君たちねぇ!」


 同僚と部下の心ない言葉に、友也は頬をひくつかせた。


「まあまあいいじゃない。大きな問題にならなくて、ジュラ公爵には感謝しなといけないね」


 サムがそうまとめようとするも、友也は納得いかない顔をしていた。

 大きな問題にこそならなかったのは事実だが、大きな被害が出ているのだ。

 ただ、一番の被害を被ったのは、言うまでもなくレロード伯爵だろう。

 まともな神経をしていれば、しばらく公の場には出てこられないだろう。


「――サム、我が伴侶となる子よ」

「なんですか、急に改まって……ていうか、そんないちいち言わなくてもサムだけでいいでしょうに」


 静かだった竜王炎樹がサムの名を呼んだので、一同が振り返る。

 彼女は空になったワイングラスを差し出した。


「ワインのおかわりがほしい」

「あ、はい」

「……こ、この竜王、僕のことなんかにこれっぽっちも興味ないみたいですね」


 なにをいうのかと思えば、ワインのおかわりだった。

 マイペースなのはわかっていたが、本当にマイペースすぎる。

 これだけのことが起きたのに、興味を示さないのも逆に凄いと思う。


「遠藤友也が男の股間を見たくて無理やり服を破ろうと興味ない」

「酷い勘違いをされているようですが、僕は男の股間を見たくて無理やり服を破ったわけではありません!」

「そうか、そういうことにしておこう」

「そうじゃなくてですね! あー、もういいです。それで」


 竜王の興味は友也ではなく、ワインの方に向いていた。

 確か、今日王宮で振る舞われているワインは、ウォーカー伯爵領のものだったはずだ。


「サム、おかわりを。今度は白がいい」

「わかりました。そんなに気に入ったのなら、今度ウォーカー伯爵領に遊びにいきましょう。ワインが名産品なんですよ」

「……ぜひ行こう」


 嬉しそうに頷く炎樹にサムも笑った。

 よほどワインがお気に召したようだ。


「サム! そんな気軽に女性を誘うなどはしたないぞ!」

「ダーリン! ママとデートなんて、私は!?」

「サムさん! 私を養ってくれるんじゃなかったんっすか!」

「なんだと!? カル・イーラ! 貴様、まさかサムの尻を狙っていたとは、話のわかるいい子だと思っていたが、とんだ食わせ者だったな!」

「別に尻は狙ってねーっすよ!」

「いいや、君は狙っている。なぜなら、そこの魔王と同じく、僕と同じ香りがするからだ!」

「やめてくださいっす!」


 自分の一言だけで、よくもまあここまで盛り上がれるものだと感心しながら、サムは炎樹のためにワインのおかわりをもらうため給仕を探すがいなかったので、ワインが置いてあるテーブルに向かう。


「ボトルごともらっちゃおうかな」


 ワインクーラーの上に冷えたワインを見つけ、手を伸ばした。


「あら、サミュエル・シャイト殿」

「――ジュラ公爵様」


 先ほど聞いた女性の声が名を呼んだので、ボトルを確保しながら顔を向けると、そこにはジュラ公爵が微笑を浮かべていた。




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