3「歓迎パーティーです」③




 かつてのクライドならいざ知らず、最近は城下町の子供にまでビンビン陛下と呼ばれ愛されているクライド・アイル・スカイが引く王家の血を欲するのか、と心底疑問に思う。

 サムとしてはいらない。できることなら、この血を取り替えたいくらいだ。いつか自分もビンビンとか言い出すんじゃないかと怯えてしまう。


「ビンビンの血族に加わりたい人間の気が知れません」

「なんつー血族だよぉ」


 口には出さないが、クライドが乾杯の音頭でビンビン言い出すと思っていた。

 さすがに王として貴族の前ではそんなふざけたことを言うはずもないようで、内心ほっとしていた。


「それにしても、驚きなのが――一番に打ち解けたのはボーウッド君でしたか」


 微笑しげな友也の視線の先には、目をキラキラさせてボーウッドに近づき声をかける貴族の少年少女がいた。

 気持ちはとても理解できる。

 魔族と親交の無かったスカイ王国の人間ならば、わかりやすい魔族――それも獅子の獣人というボーウッドは興味が湧くだろう。それ以上に、子供にはまるで絵本の中から飛び出してきた登場人物のようにかっこよく見えるかもしれない。


「彼自身、気さくで紳士です。それにほら、子供が好きなんですよ」

「さすがボーウッド」


 思えば、ヴァルザードに唆されたとはいえ、決起したときに彼を慕う獣人たちがついてきていた。

 もともと人望があるのはわかる。

 まだ知り合って浅いが、自分が獣人というスカイ王国では珍しい存在だと十分に理解していることもあって、ボーウッド自ら積極的に周囲の人たちと親しくなろうとしていた。

 メイドたちの仕事を手伝い、街に出て好奇の目で見られようと笑顔を浮かべ、興味津々な子供たちと触れ合っているのは知っているし、サムも何度か一緒だった。

 人より長く生きており、伯爵位を持つ彼は、懐も深く、大人だ。

 イグナーツ公爵やウォーカー伯爵とも打ち解け、酒を飲み交わす仲にもなっていた。

 そんな努力家で、かっこいいボーウッドが子供たちに尻尾を触らせたり、抱き抱えたり、牙を見せていると、自然と大人たちも集まり声をかけるようになっていく。

 獣人である彼に興味と同じくらい不安もあるようだが、それでも近づき言葉を交わしてみたいと思うのは、きっとボーウッドの人柄が伝わったからだろう。


「……逆にお前の従者さんは慌ただしそうだね」

「あの子たちは、ええ、まあ、ああ言う子なので放っておいていいです」


 友也の従者である白と黒の少女、ケイリィとウェンディはメイド服ではなく白と黒のお揃いのドレスを身に纏っていた。

 そんな彼女たちだが、パーティーを楽しむのではなく、貴族たちに「我が主魔王遠藤友也様をよろしくお願いします」と保護者よろしく頭を下げて回っていた。

 魔王の従者から主をよろしくと言われて困惑気味の貴族に、彼女たちは畳み掛けるように友也のいいところを説明していく。

 孤児院を経営していること、教師としても優れ、子供たちからは父のように慕われている、と。

 話を聞いた貴族たちも感心したように「ほう。魔王とお聞きしていたが、実に素晴らしい方だ」と声を漏らす。

 すると、そうでしょう、とばかりに胸を張り、さらに友也の事を語っていくのだ。


「……やっぱり、止めてきますね。あのまま放っておくと、いらないことまで暴露されそうで怖いですから」

「いってらっしゃい」


 困った顔をして従者のもとに早足で近づいていく友也に、サムは苦笑して手を振った。


「さすがの魔王も、かわいい従者さんたちには振り回されているみたいだな。なんだか新鮮だなー」

「本当っすよねぇ。でも、ほら、あの変態魔王を見てくださいよ。ケイリィさんとウェンディさんに鼻の下伸ばして、だらしねぇ。仮にもおっかない魔王のくせにみっともないっすよねぇ。部下としては、勘弁してほしいっすよ」

「ん?」

「だいたい、ラッキースケベの暴力を振り撒く存在のくせに、可愛い部下の私を放置して自分はパーティーっすか? はっ、いい御身分っすねぇ! 知ってます? 変態魔王のせいで、私は死ぬほど働いて、婚期逃しちゃったんですよ!?」

「どちらさまですかー!?」


 大皿に山盛りの食事を乗せて、むっしゃむっしゃ食べながら文句を言う美女に、サムは思わず叫んでしまった。




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