2「歓迎パーティーです」②
「俺は未成年だからお酒は飲まないんだよ」
「……異世界に転生したのに律儀ですね」
苦笑する友也は、外見こそサムと変わらないくらいの年齢に見えるが、千年以上を生きる魔王だ。
ワインを飲む姿も、どこか絵になっている。
友也のいでたちは、いつもと同じ学生服を思わせる黒い詰襟だが、金の刺繍と装飾が施されていた。
「別に律儀にってわけじゃないけど、リーゼたちがお酒を飲めないからね。俺がガバガバ飲むわけにはいかないでしょ」
「そういう奥様方は挨拶で忙しそうですが、サムは混ざらなくていいんですか? どちらかというと、君と繋がりを持ちたい人間たちだと思うのですが」
友也の指摘通り、リーゼたちには貴族たちが群がっていた。
耳を済まさずとも、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。他にも、娘や孫を側室に、という声も届くが、実に耳障りだった。
「最初は俺が相手をしようと思ったんですけど」
「ですけど?」
「貴族とのやりとりに慣れていないのから任せておきなさい、と言われてしまったので、もうお任せしちゃおうかなって」
「頼りになる奥様方ですね」
「自慢の奥さんたちですよ」
リーゼとアリシア、フランは貴族の中でも顔見知りの親子と話をしていた。おそらく、同じ派閥の貴族なのだろう。顔見知りのようで、とりあえず親気に話をしている。
水樹は、騎士派と思われる貴族と話をしており、こちらも表面上はにこやかだ。
花蓮は、祖母木蓮と一緒に談笑しており、彼女たちの周囲には同じ民族風の衣装を着込んだ人物たちがいる。おそらく親戚だろう。
「サム、気づいていますか? 君を見る目が、驚きと羨望、いくつかの嫉妬と、それ以上の……いえ、言わずとも気づいていますね。きっと、君が青いシャツを着ているせいでしょうね」
「面倒な展開になりそうだから、絶対にこっちからは声をかけないよ」
サムの着ているシャツは青く――地味にギュンターとお揃いなのが嫌だ――このような場では、王族の血を引く者しか身につけてはいけないという暗黙のルールがあった。
例外は宮廷魔法使いが王家から送られる、宮廷魔法使いだけが身につけることのできる戦闘衣の上着だ。もちろん、サムも持っている。
しかし、今日のサムは、あくまでもサミュエル・シャイト個人としてこの場に参加していて、宮廷魔法使いとしてではない。
その意味に、誰もが気づいていた。
「今までサムは亡き王弟ロイグ殿の残した子供とされていましたが、公の場で青を身につけたのですから、国が、王宮が君を王族として認めたと誰もが認識したでしょうね」
サムは、今まであくまでも宮廷魔法使いであると同時にシャイト伯爵だったが、気づけば立場は大きく変わっていた。
王弟の息子という出自がわかり、伯爵位の女性たちと、王女のステラを妻にした。これだけでも、なかなか複雑な立場だったのだが、正式に王族だと認識されるとさらに複雑になること間違いない。
魔法使いというだけでも、魔法はもちろん魔力に縁のない一族や、魔法使いを輩出してきた一族から好条件だというのに、そこに王家の血を引いていると追加項目ができたのだ。
なんとかして縁を結ぶことができれば、王家の血を取り込むことができると同時に、魔法使いの才も受け継がれる可能性もある。
そういう意味では、喉から手が出るほどほしい物件――らしい。サムとしては、辟易するばかりだ。
以前から、王家の血を引いていることは知られており、縁談の話などはあったが、また増えそうな予感だ。
歓迎パーティーの際に、クライドに青を身につけさせるように、とリーゼたちが言われていたようだが、なるほど、こういうことだったのか、と今更ながらに納得していた。
「僕は疑問なんですが」
「ん?」
「貴族が王家の血を欲するのはわかるんですが、でも、あのビンビン王家の血を引きたいですかねぇ」
「それね!」
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