エピローグ「ヴァルザード」
「ヴァルザード」
黒づくめの青年がとある野原で、青空を眺めて寝転んでいると、聞き覚えのある声が名を呼んだ。
目だけを向けると、そこには見知った顔があった。
「なんだ、ジーニアスか」
「わざわざ迎えに来てやったのに、ずいぶんだな」
「迎えなんてよかったのに。そろそろ帰ろうと思っていたところだよ」
「お母様が心配している。本当ならお母様が迎えに来たがっていたが、多忙な方であり、警戒もしなければならないので、俺が代わりに来たんだ」
「本当に?」
「当たり前だろう。俺たちはお母様が産んでくれた最高傑作だ。心配してくださるに決まっているじゃないか。お前、なにを言っているんだ?」
眉を潜めるジーニアスに、「なんでもない」とヴァルザードは言った。
しばらくそのままでいると、ジーニアスはヴァルザードの隣に腰を下ろした。
「いい天気だな」
「うん」
「今は我慢しろ。俺だって、もっと外を見て回りたいし、家族以外の誰かと接したい。しかし、まずは親孝行が先だ」
「わかってるよ。でもさ」
「なんだ?」
「僕たちが世界を支配したあとと今じゃ違うよね?」
「それは、そうだろうな。よくわからん。俺はお前のようにあまり外を知らない」
「僕だって知らないことだらけだよ。今思えば、ボーウッドくんはいい奴だったな。単純な奴だったけど、世間知らずな僕にいろいろ教えてくれたりしたもんね」
ボーウッドをはじめ、獣人たちは単純で馬鹿だったが、気のいい奴らだった。
酒を飲んだことのないヴァルザードのために宴を開き、二日酔いになったら果物をくれた。
できることなら、背後から卑怯な一撃を与えるのではなく、正々堂々と戦いたかった。
しかし、すべては母が喜んでくれるように、母のためにしたのだ。それに後悔はない。
ただ、ボーウッドが生きていると知ったので、一言だけ「ごめんね」と言いたかった。だけど、謝罪をするのはなんだか違う気がしたので、エリカには伝言を頼まなかったのだ。
「まさかとは思うが、お母様を裏切ろうなどと考えていないだろうな?」
「大丈夫。それはありえない」
ヴァルザードにとって、母親であるオクタビアは家族であると同時に創造主である。
裏切るなんて考えたことがない。
「それならいい。俺たち兄弟の中で一番強いお前がいなくなるとお母様の計画が狂ってしまう可能性もあるからな」
「ジーニアスと僕との力は変わらないと思うんだけどね」
「……俺は強い。それは間違いない。性格も戦いに向いているだろう。魔王の中でも面倒な遠藤友也やヴィヴィアン・クラクストンズが相手でも問題なく殺せる自信がある。他の魔王など気にかける必要もないだろう。だが、そんな俺よりも本気で戦えばお前の方が強いだろう。本気を出せば、だがな」
意味ありげに言うジーニアスの言葉を、ヴァルザードはあえて無視した。
同じ兄弟で強い弱いを比べることはナンセンスだと思ったからだ。
自分たちの力は母のためにあり、母のために使う。
それだけだ。
「女神はまだ見つからないの?」
「まだ時間がかかるらしい。だが、それでいいようだ。俺たちが今以上に成長する時間をもらえるからな。俺とお前はさておき、他の兄弟はまだ弱い」
「それでも魔王級だけどね」
「違いない。さて、そろそろ帰ろう。お母様と兄弟もお前の帰りを待っている」
「うん」
ジーニアスと一緒にヴァルザードが立ち上がる。
先に歩き出したジーニアスだが、ヴァルザードは足を動かさずに、遠いスカイ王国のある方向を一瞥する。
「――また会いたいな」
なぜ自分がそんなことを口にしたのか理由がよくわからない中、ヴァルザードは家族のもとに帰るのだった。
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コミカライズですが漫画家様と連載が決定致しました!
詳細はまた後日にて!
何卒よろしくお願い致します!
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