59「夫婦の時間です」②
「ね、念のために聞いておきたいのだが、女神エヴァンジェリン様に授かった君のあれは……まさか」
「ええ、そのままですわ。しかし、困りました。生やす前では感じなかったムラムラする感覚が少々慣れませんわね。今だって、ギュンター様の可愛らしいわたくしへの愛情を込めた技を知ったせいで、今にもはちきれそうですわ!」
ぞわり、とギュンターの全身が総毛だった。
この流れは良くない、と確信があった。
今まで何度も、このままとんでもない目に遭わされていた。
「君がまだあんなおぞましい物体をぶら下げているのは驚きだが、残念ながら今の僕は女性の肉体ではない!」
「あら可愛いことをおっしゃいますね。男性でもわたくしのお相手を十分にしていただけるはずですが?」
「ま、まさか……そんな、いや、いやいや、違うよね?」
「ふふふふふふふふふ」
「怖いっ!」
ギュンターが逃げようとするも、部屋から出るにはクリーが邪魔をしている。
最悪、窓から脱出しなければならないのだが、客人がいる伯爵家でバスローブ姿で徘徊していたらただの変態だ。
ギュンターが葛藤するわずかな間にも、手をわきわきさせてクリーがにじり寄ってくる。
「お、おかしなことをすれば舌を噛むぞ!」
「あらあら、そんなことを何度かお聞きしましたが、一度も噛んだことはありませんわよね? むしろ、とても――」
「やめろぉおおおおおおおおおおおおお! この悪魔めええええええええええええ!」
「ふふふふふふふ! ギュンター様の新たな扉を開いて差し上げますわぁ!」
クリーの目が艶やかに輝いているが、彼女の瞳に映るギュンターは今にも泣きそうな顔をしている。
このまま凌辱されてしまうのか、とギュンターが諦めかけたその時、
「うるさいんだけど! 盛るなら自分の家でやりなさいよ! この変態夫婦っ!」
ウォーカー伯爵家の四女のエリカが、扉を蹴り破って文句を言ってきた。
「クリー!」
「は、はい、エリカお姉様!」
「あんたね、ギュンターを迎えにきたんでしょう? さっさと連れてきなさい!」
「そうでした!」
「はぁ。普段はいい子なのに、変態が絡むと変態になるってどういうことよ。ギュンターのせいね」
クリーはエリカをはじめ、リーゼたちを姉と呼び慕っている。
最年少であることと、妹同然に可愛がられていることから、自然なことだった。
それゆえに、こうして叱られるとしゅんとしてしまう。
相手がギュンターならば、知ったことではないと襲いかかるのだろうが、夫以外にはちゃんとした子なのだ。
「さ、帰りましょう。ギュンター様」
「断る! 帰ったら今までの続きをされるとわかっているのに、素直に従うと思っているのかな!?」
「………………そそそそ、そんなことありませんわ」
「ママはもう少し隠す努力をしたほうがいい」
そんな夫婦のやりとりを見てため息をついていたエリカだが、何かを思い出したように口を開いた。
「そうそう。サムに聞こうと思っていたんだけど、この際ギュンターでもいいわ」
「僕でも、という扱いの悪さに文句のひとつでも言いたいのだが、なにかな?」
「――ヴァルザードって子、知ってる?」
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