「ウルリーケ外伝10 見合い」②
「お前がウルリーケだな! 僕の妻にしてやる! 光栄に思え!」
お見合いの席。王都の一流レストランの個室にて、両家の両親と子が席に着くと同時に、亜麻色の髪をおかっぱ頭にした小太りの少年が声高々にウルに言い放った。
年齢は十五歳と聞いている。
少年は、まるで自分がかっこいいことを言ったと言わんばかりにドヤ顔をしていた。
(……十五歳でこれか。サムのほうがちゃんとしていたな。あの子は転生者であることを差し引いたとしても、いい子だったんだけどな。この豚は、こんにちは、の一言も言えないらしい)
そもそもこのような席で、目上の人間よりも先に口を開くことさえどうかと思う。
可哀想なのはデーロ伯爵だ。
最初こそ、恋する乙女のような顔をして父ミシャに挨拶していた、恰幅がよく人のよさそうな中年男性だったが、息子の言動に顔色を真っ青にしていた。
続いて、デーロ伯爵夫人は母グロリアに熱い眼差しを送っていたのだが、やはり息子の言動に気絶しそうなほど顔色を悪くしていた。
「……ジェフリー……お前はなにを言っているんだ?」
震える声で、デーロ伯爵が息子に尋ねると、ジェフリーは鼻を鳴らした。
「なにを、と言われても、辺境の田舎貴族の次女程度が僕のような高貴な身と結婚できることがどれだけ幸せなのかわからせてあげようと思いましてね。僕だって女の好みはありますが、家のためを思ってこんなガキで我慢してあげるんですから、言いたいことくらい言わせてもらいますよ!」
デーロ伯爵は、息子の発言でミシャたちが笑顔から無表情に一変したことに気づき、大慌てする。
しかし、できないとわかったのだろう。
伯爵が拳を握り、腕を組んで胸を張る息子を殴ろうとした。
――が、それよりも早く、立ち上がったウルが大きく跳躍し、テーブルを飛び越えてジェフリーの顔面に蹴りを入れた。
ぐしゃっ、とあまり耳にしたくないなにかが潰れる音が響くと同時に、ジェリフーが吹っ飛び個室の壁を突き破った。
無表情だった両親も、顔色を真っ青にしていたデーロ伯爵夫妻も、突然すぎるウルの行動に愕然としていた。
ウルは止められないことをいいことに、鼻から血を流して呻くジェフーリをもう一度蹴り、仰向けにすると、その上に乗った。
そして、
「誰がお前の妻になんかなるかっ! このボケっ! 私の夫はサムだけだって決まってんだよ!」
叫びと共に、拳を握りしめ、思い切りジェフリーの顔面にたたき込んだ。
十歳の少女が、十五歳の少年に馬乗りになって拳を振り下ろし続ける光景を、大人たちは言葉もなく見ていたのだが、はっと正気に戻ったミシャが慌ててウルを背後から抱き抱えようとする。
「ちょ、ウル! この子、力強い!」
だが、かなり頭に来ているウルは身体強化魔法を全力で使い、父に抵抗する。
ただ、腕を抑えられてしまったので、今度は蹴りをジェフリーの腹にたたき込んだ。
「やめなさい、ウル! ちょ、本当にやめて! 気持ちはわかるけど、めっ、めっ、だよ!」
本気で怒っているとは思えないミシャだったが、ウルもジェフリーが動かなくなったので、もういいや、とどうでもよくなり攻撃をやめた。
(ついやりすぎてしまったな。あのガキをボコボコにしたのは気にしていないが、店の壁を破壊したのはやり過ぎだった。子供の肉体に精神を引っ張られているせいか、少々感情的になりやすいな)
すっきりしたウルは、わずかな反省をしつつ、デーロ伯爵に顔を向ける。
絶対激怒しているだろう、と思い顔色を伺ったのだが、
「……はぁはぁ、わしもミシャ殿に、めっ、て言われたい。可愛く叱られたいぃ」
息子そっちのけではぁはぁしていて気持ち悪かった。
(やっぱり変態だ!)
ウルの予感が確信に変わった瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます