43「仲直りできましたか?」
「身体を回復させて立つのだ、夫よ」
「……わかったよ」
灼熱竜に従い、超速再生させて玉兎は立ち上がる。
そんな夫を再び灼熱竜が殴った。
「痛いっ! 治させたのに殴るなよ!」
「傷ついた夫を殴るのは気が進まなかったのでな」
「殴ったし、踏みつけもしたよな!?」
「些細な違いだ。さて、なにか私に言いたいことはあるか?」
頬を抑える夫を真っ直ぐ見つめる灼熱竜に、
「――ごめんなさい」
玉兎は、素直に謝った。
「初めからそう謝ってくれればよかった――と、言いたいが、私もすまなかった。思えば、お前とゆっくり会話をする時間がここ何年もなかったな。私が弱体化したことで、戸惑っていたお前と向き合わず、子供を優先してしまった」
「いや、そりゃ親なんだから……俺も親なのに子供を任せきりですまねえ」
灼熱竜と玉兎は、自然と手を伸ばし、握り合った。
強かった妻が子を産み弱体化したことに、玉兎は思うことがあったのだろう。
だが、今、少なくとも向かい合おうとしている姿がある。
ふたりはきっとうまくいくだろう。
この場の誰もがそう思った。
「お前も悪かったな。えっと、メルシーだったよな?」
玉兎がサムに抱えられたままの娘の頭を撫でようと、そっと手を伸ばす。
「勝手に名前を呼ぶな!」
しかし、メルシーは玉兎を受け入れず、がぶり、と噛み付いた。
「いだだだだだだだっ! 刺さってる! 牙が刺さってる! ちょ、お父さんの心は身体と違って頑丈じゃねえの! 繊細なの! やめてぇえええええええええええええ!」
「誰がお父さんだ! 悪臭のするおっさんなんて知らない! がるるるるるるるるっ!」
灼熱竜と違い、メルシーは玉兎を完全拒否だった。
これには、「あちゃー」とサムも困った顔をする。
「どうやら我が子といい関係を築くには時間が必要のようだ」
「……め、メルシーちゃん、お父さんがおかしを買ってあげようか?」
「知らない人から食べ物もらわないようにってアリシアママが言ってたからいらない! おっさんからはなんにもいらない! 近づくな! 臭い! きもい!」
父親が言われたくないであろう言葉を連呼するメルシーに、ついに玉兎の心が折れてしまい、がっくり項垂れる。
散々子供を放置したのだ、これくらいは甘んじるべきだ。
幸い、竜たちは寿命が人間よりも遥かに長い。いずれ、関係が良好なものになる日も来るだろう。
「さて、では、そろそろ調教――ではなく、夫婦の会話の時間だ。じっくりねっとり話し合おう」
「うん? あ、ああ、なんだかわからないけど、わかった」
「そこは、わかったって言っちゃ駄目なんじゃないかなぁ?」
いい感じで終わるかと思ったが、灼熱竜にそのつもりはないようだ。
きょとん、としている玉兎が、これからなにをされるのか想像もつかない。
いや、違う。
青ざめて震えているギュンターを見ていると、想像もしたくないが正しい。
「お母さん、おっさんをどうするの? ボコボコにするならメルシー手伝うよ! 四肢を砕くよ!」
「……我が子ながら笑顔で恐ろしいことを。父と母はふたりきりで、今後について話し合いをするのだ。メルシーはサムと一緒にお留守番だ」
「ぶー!」
「なに、心配せずともすぐに帰る。うまくいけば弟か妹が増えるだろう」
「……よくわかんないけど、わかった! パパと楽しみに待ってるね!」
「いい子だ」
灼熱竜はメルシーの頭を撫でると、玉兎の襟首を掴んで宙に浮かぶ。
「お、おい?」
「いいから来い」
どこにいくのか知らされていない玉兎を有無を言わさず引っ張っていく灼熱竜をサムたちは見送る。
「きっと想像していることよりも、数倍愉快なことになるんでしょうねぇ」
友也が苦笑いし、サムも頷いた。
そして、
「よし! じゃあ! 帰ろう、スカイ王国へ!」
玉兎のことは忘れて、念願の家族の元へ帰ることにした。
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